(31)我が名は天
初回放送日:2025年8月17日
利根川決壊で大洪水の江戸。蔦重(横浜流星)は、新之助(井之脇海)らを気にかけ深川を訪れる。一方意次(渡辺謙)は、体調を崩した家治(眞島秀和)からある話を聞く…。

おふくさんの最期と、時代の貧困がもたらした非情な現実。
さらに上様が遺した「まとうど」の言葉から本質を見る力を考えます。
駆け落ちから江戸への帰還
いきなり結末のネタバレになってしまいますが、おふくさんが亡くなってしまいます。吉原を抜け出して新之助と駆け落ち。貧困と災害を乗り越えて、江戸に舞い戻ってきた二人です。
江戸にもどった時は命からがらで、着の身着のまま帰ってきました。
江戸での新生活
蔦重の計らいで貧しいながらも家を借り、江戸での生活も始まりました。やがて可愛い子宝にも恵まれ、幸せなのかと思いきや…。
水害と「もらい乳」
今度は水害です。多くの人たちが困難にまみれ、その日の食べ物にも困る始末でした。
新之助とおふくさん夫婦には蔦重が何かと差し入れていたため、ギリギリながらも生活は出来ていたのです。そんな中で、自分の子供にお乳を与えるおふくさん。
やがて乳飲み子を抱えた女性たちがやってきて、我が子だけでなく他人の子供にもお乳を与えることになります。これは、栄養不足でお乳が出ない母親に代わって「もらい乳」をしていたのです。
裕福ではないながらも、犠牲的にお乳を分け与えていたおふくさん。命を削るような行為でありながら、感謝こそされても恨まれることはないはずでした……。
非業の死
しかし、おふくさんが命を落としたのは、「あの家には米がある」と言われて襲撃されたからです。襲った夫婦にも乳飲み子がいて、土下座して謝るも、失われた命は戻りませんでした。
一気に妻子を失った新之助。命を奪った夫婦を責めることはできません。自分も同じような立場だったからです。
女郎から純粋な恋愛をし、二度目の駆け落ちで本当の夫婦となった二人。どんなに貧しくても身を崩さず、最後はつつましくも幸せに暮らすのだと思っていました。
しかし、そうは問屋が卸さなかったのです。この時代の貧困は人を殺めるほどのもので、人に親切にしたことが仇になるという、やるせない結末になりました。
上様も身罷れる
もう一人、重要な上様も命を落とします。まるで毒を盛られたかのような最期……。徳川一橋家の治済とその父が黒幕であったかのような描写でした。
「まとうど」と田沼意次
ただ、上様は田沼意次のことを「まとうど」だと言い残します。
「まとうど」とは正直者という意味。
跡取りには、そうした正直者を信用するようにと伝えるのです。

上様は多くを語らずとも、本質を見抜いていた――そのことがよくわかる回でした。
各話リスト

今までのお話の感想を書いています。
たまに蘊蓄も追加しています。
よろしかったらどうぞ。
第1話「ありがた山の寒がらす」
第2話「吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸」
第3話「千客万来『一目千本』」
第4話「『雛形若菜』の甘い罠」
第5話「蔦(つた)に唐丸因果の蔓(つる)」
第6話「鱗(うろこ)剥がれた『節用集』」
第7話「好機到来『籬(まがき)の花』」
第8話「逆襲の『金々先生』」
第9話「玉菊燈籠恋の地獄」
第10話「『青楼美人』の見る夢は」
第11話「富本、仁義の馬面」
第12話「俄(にわか)なる『明月余情』」
第13話「お江戸揺るがす座頭金」
第14話「蔦重瀬川夫婦道中」
第15話「死を呼ぶ手袋」
第16話「さらば源内、見立は蓬莱(ほうらい)」
第17話~乱れ咲き往来の桜
第18話「歌麿よ、見徳(みるがとく)は一炊夢(いっすいのゆめ)」
第19話「鱗(うろこ)の置き土産」
第20話「寝惚(ぼ)けて候」
第21話「蝦夷桜上野屁音(えぞのさくらうえののへおと)」
第22話「小生、酒上不埒(さけのうえのふらち)にて」
第23話「我こそは江戸一利者(えどいちのききもの)なり」
第24話・げにつれなきは日本橋
第25話・灰の雨降る日本橋
第26話・三人の女
第27話・願わくば花の下にて春死なん
第28話・佐野世直大明神
関連書籍一覧

ドンドン追記していきます。
私も精読中。
また、感想の方も上げて行きますのでお楽しみに!