100分de名著~ドラキュラ~ブラム・ストーカー

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グレース
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ドラキュラと聞いて?
吸血鬼?トランシルバニア?ルーマニア?ドラキュラ伯爵?
心臓に杭を打たれると死ぬ?
このデフォルトを形成した本作に迫ります。

(1)「ドラキュラ」の誕生

ブラム・ストーカー“ドラキュラ” (1)「ドラキュラ」の誕生
初回放送日NHK教育テレビジョン10月6日(月)午後10:25
ドラキュラ発刊当時アイルランドでは支配層としてイギリスから派遣され土着化した「アングロアイリッシュ」が没落。イギリス人でもアイルランド人でもない彼らはマイノリティとして自らのアイデンティティをどこに求めるか葛藤していた。アングロアイリッシュである作者は社会から異質なものとして疎外されつつあったマイノリティを「ドラキュラ」という怪物を描くことによって掬い上げようとした。第一回は、執筆背景に迫る。

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あわい ― はっきりしない中間の領域

ドラキュラの説明から入るかと思いきや、ドラキュラと人間の関係から始まります。
それは「あわい」という言葉から入ります。
どちらともいえない中間の領域。
それは〇か×かでもなくて、黒か白でもない。
二つに分けられない、もう少しグレーな部分があるということかなと私は捉えています。

あわい
はっきりしない中間の領域

ネガティブ・ケイパブリティ
相手の気持ちに寄り添いながらも分かって気にならず不確かや疑いの中にいられる能力のこと
ドラキュラの作者のブラム・ストーカーは「ドラキュラは悪、人間は善」という二分化ではない

ブラム・ストーカー自身はアイルランド人
アイルランド人たちはほとんどがカトリック教徒であるなかでイギリスが入ってくることでイギリス国教会(プロテスタント)が入ってくることで一気にマイノリティになる。
また、結婚していたが、同性愛者でもあったストーカー。

同じアイルランド人で作家のオスカー・ワイルドは同時期に逮捕されてしまいます。

イギリスでは同性愛者というだけで逮捕された時代がったのです。
今の人達には馴染みのない話かもしれません。
同性愛そのものが犯罪であったのです。
そこで、ブラム・ストーカー自身が同性愛であったのでバレたら罪に問われてしまうという感覚を持っていたのです。

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同性愛と言うだけで犯罪だった英国の考えは近年まで及びます。
有名なところではチューリングマシーンと言う現代のパソコンの基礎を作ったと言われるアラン・チューリングも同性愛で逮捕されています。(逮捕されたのは1952年)

アラン・チューリングについては映画でどうぞ。「シャーロック」のカンバーバッチの主演によるものです

吸血鬼のデフォルト

吸血鬼のモデルはルーマニアのヴラド3世という人物です。

ドラキュラ(吸血鬼)と言えば、イメージされるのは以下のように思いますが、このデフォルトがこの作品そのものなのです。
・噛みついて血を吸う
・火と水を恐れる
・胸に杭を打たれると消失
・太陽にさらされると灰になる

カーミラ ― 女吸血鬼の物語

カーミラ 女吸血鬼カーミラの物語もここで紹介されます。
カーミラと聞いて「ガラスの仮面」を思い浮かべた人も多いかもしれません。
私もです。
美内すずえの「ガラスの仮面」の中で姫川亜弓が演じた吸血鬼カーミラです。
悪であるはずの吸血鬼だったのですが、観客からは姫川亜弓の演技力によってカーミラの方が可哀想に思うという感覚でした。

吸血鬼は人の血を吸う「悪」であるはずなのですが、吸血鬼は社会的には弱者であるということがここでもわかると思います。

今回、紹介されたブラム・ストーカーの「ドラキュラ」も女吸血鬼を描いた「カーミラ」も共にアイルランド出身の作家なのです。

アイルランドという背景

アイルランドは本来、独立した国で言語もゲール語という独自のものがありました。
ですが、イギリスの台頭により、英語が主流になっていきます。
英語といってもアイルランド訛りがあることで階級や差別的な扱いを受けているということを暗喩しているのです。

英語を話すということがすでにマウントの対象になっているわけですね。
ドラキュラの世界ではアイルランド訛りの英語を話すことでコンプレックスを持っている。
その一方でロンドン育ちのエリートである弁護士のジョナサンはその階級にあった英語を話すわけです。
この時点でドラキュラは弱者、弁護士のジョナサンは強者なわけですが、ドラキュラの城に閉じ込められているのはジョナサンです。

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アイルランドで吸血鬼の作品が物語として発表されたのは必然かもしれません。
多くのファンタジー小説が生まれた国です。
ケルト神話の生まれた国と言うとイメージしやすいですね!

「あわい」につながる世界

これが冒頭にでた「あわい」という言葉につながっていきます。

この乱れ具合がとても良いですね。
時代背景を知るとドラキュラが単にモンスターの話ではなさそうですね。
そして、ジョナサンはドラキュラに捕えられ、宙吊りになってしまうところで、話は展開していきます。

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ドラキュラに宙吊りされたジョナサン。
でも、次回はすぐに解決とはいかないようです。

(2)排除される女性たち

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ブラム・ストーカー“ドラキュラ” (2)排除される女性たち
初回放送日NHK教育テレビジョン10月13日(月)午後10:25
最初の被害者ルーシーは新しい生き方をする女性として際立っており、当時活躍を始めていた結婚せずに自立して生きる「ニューウーマン」という存在を象徴している。男性社会の中では蔑称としておとしめられていた存在。マイノリティ性を自覚していた作者はルーシーを同情的に描いている。吸血鬼と化した彼女を白人ミドルクラスの男たちが集団で杭打ちするシーンは当時のミソジニー(女性嫌悪)的な風潮を揶揄(やゆ)しているという

ミーナとルーシーのガールズトークでジョナサンは忘れられる?

ドラキュラ伯爵によって弁護士のジョナサンは捕えられ、宙吊りにされてしまいます。
ですが、ここから場面は展開し、ジョナサンの婚約者のミーナとその親友ルーシーのガールズトークになっていきます。
ミーナはジョナサンの婚約者ですが、ルーシーは一度に3人の男性にプロポーズされるモテモテの女性です。
それを延々と話している中で、やっと「ジョナサンは?」という話になります。

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ドラキュラ城で宙吊りにされたジョナサンは無事に救出されてブダペストの病院へ。
かなりトラウマを抱えていました。

「新しい女」と吸血鬼の象徴

そんなモテモテのルーシーは吸血鬼にもモテてしまったようです。
ルーシーは当時にすれば「新しい女」です。
前衛的な考えにそぐわない女性は「よろしくない」と考えられたというのです。
だからこそ、そんな女性こそ「女吸血鬼」──つまり、人の世界にはそぐわない人物であるという解釈がされるのです。

女吸血鬼⇐「新しい女」⇒前衛的で人の世界にはそぐわない

ここで3人の女吸血鬼が出てくるわけですが、いずれも官能的で性的な感じです。
つまり、「新しい女は女吸血鬼と同じだよね」というイメージを世間は持っているというのですね。

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ジョナサンはこの3人の女吸血鬼に、かなりもみくちゃにされたようです。
そりゃ、トラウマになります。
ですが、これも、悪いのは女性と言う図式になっているように思います。

吸血鬼となったルーシーの悲劇

吸血鬼に噛まれてしまった魅惑的な女性であるルーシーは吸血鬼になったとされ、今度は退治される存在になってしまいます。
この退治するというのも男性に囲まれての話になります。

その筆頭にあるのはオランダの医者ヴァン・ヘルシングです。
オランダは先進的な医療 → 最高の治療を受けているということなのです。
ルーシーはヴァン・ヘルシングによって殺さなければならない存在になってしまいます。

さあ、ここで男たちは吸血鬼になってしまったルーシーを吸血鬼の方法で殺します。
実はこの時点でルーシーは死んで棺の中にいます。
ですが、棺の中が空になった日があり、その翌日には血色が良くなって帰ってきます。
ここでルーシーは吸血鬼だという確信に変わります。
心臓に杭を打つという方法で絶命させるのです。
亡くなった後は、ルーシーは安らかに、吸血鬼ではなくルーシーとして棺の中に収められているという寸法です。

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ルーシーは吸血鬼になって夜な夜な人を殺めているとは言ってもたった一人の女性です。
男性が何人もかかって殺すというのは奇異に感じます。

ルーシーは本当に退治されるべき存在なのか?

ですが、ここに違和感を感じるというのが指南役の小川先生。
吸血鬼になったからルーシーは退治されなければならない一方で、ルーシーは被害者でもあるのです。

杭を打つ → ペネトレイト(penetrate)→ 性行為という意味も暗喩される

つまり、男たちに囲まれて集団レイプのような暗喩もあるのかということです。

「まなざしの暴力」と男性目線の文学

ここで神経病学者シャルコーによるヒステリー研究の臨床講義を描いた絵が紹介されます。
ヒステリー症状のある女性に催眠術をかけて、30人近くの男子学生に講義をしています。
被験者である女性が何もレイプをされているわけではないのですが、「まなざしの暴力」はあったと思われます。

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文学も男性目線であるということは、この作品でも言えると思います。

フロイトはシャルコーの弟子です
文学が男性上位であるということは侍女の物語でも語られます

(3)境界線上の人々

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ブラム・ストーカー“ドラキュラ” (3)境界線上の人々
初回放送日NHK教育テレビジョン10月20日(月)午後10:25
レンフィールドは担当医スワードからも研究対象として扱われ全くケアを受けられない打ち捨てられた存在。精神感応力でドラキュラとの交信を試み主と仰ぐが彼からも裏切られる。一方のミーナは、ドラキュラの毒牙にかかるものの、人間と吸血鬼のはざまをゆらぎつづける中間的な存在として葛藤を続ける。彼女はドラキュラにさえ「憐れみ」の感情を抱く強い共感能力をもつ。その能力はやがて事件解決のカギを握ることになるのだ。

ドラキュラっぽい人が患者にいた?

レンフィールドという、ドラキュラを彷彿とさせる人物です。
生き物や昆虫なども食べてしまうという異常行動を取ります。
突然叫んだり、奇異な行動を見せたりします。
暴れるのは夜で、昼は比較的おとなしい。
こうしたところが、「ドラキュラかもしれない」と読者に思わせるわけです。

精神を病んでいるレンフィールドは「むしろ弱者」であり、赦しを乞うている存在です。
それを許さないのは医師側が悪いのではないか、と読者に思わせるテクニックがあるのです。

ヴァン・ヘルシングのドラキュラ観

ポリマス=博学者

ヴァン・ヘルシングは最先端の医術を取り入れながら、伝承も受け入れる人物でした。
興味深いのは、ドラキュラの特性である「変身すること」や「空を飛ぶこと」を突き止めていた点です。
こうして科学だけでなく心霊的なものや目に見えない世界にも着目する人を「ポリマス(博学者)」と呼びます。

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このことを指南役の小川先生は、「日本で言えば南方熊楠のような存在ではないか」と述べています。
南方熊楠は細菌学者として有名ですが、民俗学者としての側面も持っており、多方面にわたって博学でした。

ドラキュラにおける男尊女卑

『ドラキュラ』の中では、知的な女性に対しても男尊女卑の描写があります。
一般的な女性だけでなく、博識でドラキュラ退治に貢献した女性に対しても、同様の扱いが見られるのです。

ミーナという女性は、日記を時系列に整理してドラキュラ退治へとつなげていきます。
この地道で地味な作業があったからこそ、作戦は成功しました。
それにもかかわらず、ヴァン・ヘルシングは「男性の頭脳のように素晴らしい」と称えつつ、ミーナの役目が終わった際には「騎士道的に撤退するように」と命じるのです。

実際のところは、「男性のように頭がいい」と言いながら、「女性だから引き際を考えろ」ということになります。
利用されるだけ利用されて、あとはお払い箱のような扱いですね。

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さて、このミーナがドラキュラの毒牙に襲われたところで、第3回は終わります。
続きはどうなるのでしょうか。

(4)近代VS前近代の戦い

ドラキュラに噛まれたミーナはまさかの正気だった!

吸血鬼に噛まれたミーナは、そのまますぐさま吸血鬼になるかと思いきや、彼女は正気です。
さらには、この場を打破するためにドラキュラを追い詰めるのはミーナ自身です。
ドラキュラに噛まれて駆けつける男たちでしたが、今まで日記の整理、時系列を冷静に分析しているミーナは、皮肉なことにドラキュラに一目置かれている存在ということなのです。

ドラキュラは、ミーナが自分自身のことをよく知っているので、ミーナをあえて噛んで自分の血を飲ませたということなのです。

ミーナ一行、ドラキュラを追跡!

ドラキュラは木箱に入ったまま船でルーマニアのトランシルバニア城に向かいます。
これを追跡するのが男たちとミーナ一行。
ミーナたちは欧州の鉄道を使ってドラキュラ城に向かいます。
これがなんと、あのオリエント急行なんですね!
当時の最先端の粋な旅行ルートでもあったのです。
追跡しながら各国をまたいでいくのは、当時の読者をどれだけワクワクさせたことでしょう!

ハッキリ言って一番の功労者は、噛まれた本人であるミーナです。
一番ドラキュラを理解し、先手を打つのはミーナ本人です。

この先手を打ち、推理していくのは、日本で言えば名探偵コナンや金田一耕助に匹敵するほどです。
ミーナはその知識も素晴らしいのですが、ドラキュラに噛まれ、血を飲まされたミーナは、ドラキュラと意思疎通できてしまいます。
先手を打っても、ドラキュラに心を読まれているのではないかという前提もあったうえで、ドラキュラの先手を打つのです。
ここで、ドラキュラと対峙するために行く先々での追跡は、鬼気迫るものです。

ドラキュラは安らかな顔で死んで行く

追いつめてドラキュラを杭で退治するということになります。
この時にドラキュラは安らかな顔で旅立っていくということになります。
死ぬことで怪物であるドラキュラは救われるということになるのでしょうか?

後日談付き

ドラキュラ退治から7年後の手記という感覚で、ミーナはジョナサンと結婚後、子宝に恵まれたことで話は終わります。
ここで、ドラキュラでもなく、他の男たちでもなく、女性であるミーナの活躍で平安が訪れたような感覚です。

弱者に向けた思い

作者のストーカーは、自分自身がアングロ・アイリッシュであったことや、同性愛者であったこと、とことんマイノリティであったことから、弱者に向けられた思いもあったと指南役の小川先生は言います。
その弱者とはドラキュラ自身であり、最終的にドラキュラ退治の功労者であったミーナが「新しい女」であることも、弱者に目を向けたということだろうと思われます。

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ドラキュラが怪物退治と言う話だけでなくて弱者の立場に向けた話だと知って今までとは見方が変わった物語でした。
怪物だから退治されるのではなくて弱者だから?
でも、それに立ち向かったのも弱者だった?
読後も色々考えたお話でした。

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