窓ぎわのトットちゃん
窓ぎわのトットちゃん。
テレビでおなじみの黒柳徹子さんの自伝的なお話です。
戦後最高のベストセラーと言われ2500万部を突破。
(ギネス記録)
誰もが知るお話ですが、ちょこっとあらすじと発行当時の思い出などを書いていきます。
どんなお話?
主人公の女の子の名前はトットちゃん。
いきなりの出来事は何と「小学校を退学!」
他の子供たちと同じように座って授業を受けられない。
机をバタンバタン開ける(一日100回以上やる)
担任の先生はとても対応できず、匙を投げられる。
新しい学校に行く⇒それがトモエ学園
しかし、そんな学校も東京大空襲で焼失してしまう。
そんな学校を前にトモエ学園の創設者でもあり、
校長でもある小林先生は「おい、今度は、どんな学校、作ろうか?」と前向きなセリフで物語は結ばれます。
タイトルについて
「窓ぎわのトットちゃん」というのは作者が執筆中に流行った言葉で「窓際族」という言葉から来ています。
一般の会社員で出世の見込みのない窓際に追いやられた人達の事を「窓際族」という揶揄した言葉です。
主人公のトットちゃんが最初に退学になった小学校でチンドン屋を呼び込むために「窓ぎわ」にいた事を掛けています。
トットちゃんは主人公の呼び名です。
本名は黒柳徹子さんの「徹子」です。
「てつこ」と発音しますが、幼い頃の主人公が「てつこ」と発音できずに「トット」と言っていた事にちなんでいます。
この二つを合わせて「窓ぎわのトットちゃん」というわけです。
「窓ぎわ」は「窓際」ではなくて「窓ぎわ」です。
発売当時の思い出
私が小学生の頃に発売されたこの物語。
既に有名人で「徹子の部屋」でおなじみのタマネギ頭の黒柳徹子さんが書いた話という事で大ヒットでした。
また、装丁は「いわさきちひろ」さんが担当されています。
水彩画の柔らかい絵の方です。
一度くらいは観た事があるという人も多いと思います。
この素敵なイラストがとてもこの物語にマッチしていたので、読んでいる多くの人は「トットちゃん」のために描かれたイラストと思う事でしょう。
ですが、発行当時には既に故人。
生前に描かれた絵の中からトットちゃんに合う絵を探して装丁としたのです。
初読の感想は衝撃的でした。
「小学校って退学になる事あるの?」
「裸でプールに入るの?」
「障害のある子に優しい!」
「トモエ学園なくなっちゃったの?」
ざっと思い出せるだけで、こんなにあります。
半世紀近く前の記憶ですが、こうも鮮やかに蘇ります。
私が一番感動したのは「高橋君」でした。
障害がある男の子です。
もちろん、運動も簡単にできるわけでもありません。
でも、校長の小林先生はこの高橋君が1位になれるように運動会をします。
1位と言っても、ぶっちぎりの1位です。
他の子供たちは「高橋君」を羨ましがるくらいです。
トットちゃん自身も小学校を退学になるくらいのものすごい個性の持ち主です。
・授業を座って受けられない。
・机をバタンバタンと100回以上やる。
・チンドン屋も呼び込む(学校に)。
そりゃ、担任の先生も相当な難儀をしただろうという事が推察されます。
今なら、こういう子供に対しても対応できるノウハウも出てきましたが、当時は難しかったでしょう。
そもそも、「そんな子供はいらない」と言われる事がデフォルトだったかもしれません。
そんな中でトットちゃんを受け入れた「トモエ学園」の小林先生。
今で言うフリースクールの前身と言ったところでしょうか?
おまけに忘れるなかれ、これ戦前の話です!
何とこの前衛的なトモエ学園は戦前にこの思想を持ち、教育を実行した奇跡的な学校と言って良かったのではないのでしょうか?
前衛的過ぎた学校
この素晴らしい学校が戦前にあった奇跡もものすごいのですが、当の小林先生は「世間には受け入れられない」事も重々承知されていたようで取材などはほとんど受けていなかったと言います。
ですから、この素晴らしい「トモエ学園」の事を噂を聞いても資料がありません。
更に当の学園は戦争で焼失してしまっています。
専門家たちの間でも議論されていた中に黒柳徹子さんが在籍されたという奇跡が起こったのです。
現在でもフリースクールが一般に浸透しているわけではありません。
人によっては理解しない人も多いとも言えます。
その中で出てきた「窓ぎわのトットちゃん」それは奇跡の1冊と言ってよかったのかもしれません。
トモエ学園の焼失後、小林先生は再建に力を入れます。
ですが、完全復活に届かず、小林先生は亡くなってしまいます。
トモエ学園の再建は叶いませんでしたが、小林先生によって生み出された人は黒柳徹子さんだけにとどまりません。
物理学者の山内泰三さん。
女優の池内淳子さん。
そして、この本の中には出てきませんが美輪明宏さんも小林先生の授業を受けた事がある事を明らかにしています。
(美輪さんはトモエではなくて高校時代の授業の一環でリトミックを習っている)
なぜ、今、そんなに人気なのか?
トットちゃんは2023年にはアニメ映画になり、続編が出ています。
じわじわと再人気が出てきて、書店でも平積みになるようになりました。
私も今回再読してみて、「やはり前衛的過ぎる」という印象を持ちました。
今でもそういう印象を持つのです。
トットちゃんが在籍していたその時代なら「批判」の方が圧倒的に多かったのだろうと思います。
でも、そんな中でたくさんの著名人を輩出する事になったトモエ学園。
トットちゃんのなかでも語られますが、一時期にいた人数は全学年を合わせて50人程度。
そんな小さな学校で世間からは厄介者扱いされた子供たちを一気に引き受けて真っ直ぐに育てたのです。
子供たちはみんな【訳あり】でした。
ですが、小林先生のおかげで大きく羽ばたいていったのです。
「窓ぎわのトットちゃん」はそんな素敵なお話です。