2023年6月の名著。
ショック・ドクトリン
ナオミ・クライン
クラインによれば「ショック・ドクトリン」とは、社会に壊滅的な惨事が発生した直後、人々が茫然自失している時をチャンスととらえ巧妙に利用する政策手法だという。
https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/R83R575G41/
前提条件から難しいですが、頑張って感想を書いていきます。
予告では火事場泥棒という厳しい言葉で表現しています。
第1回 「ショック・ドクトリン」の誕生
ナオミ・クライン“ショック・ドクトリン” (1)「ショック・ドクトリン」の誕生
初回放送日: 2023年6月5日クラインによれば「ショック・ドクトリン」とは、社会に壊滅的な惨事が発生した直後、人々が茫然自失している時をチャンスととらえ巧妙に利用する政策手法だという。
最初にショック・ドクトリンが大々的に行われたのは70年代に起こったチリ軍事クーデター。徹底した民衆弾圧で社会全体がショック状態にある中、ミルトン・フリードマン率いるシカゴ学派が乗り込み市場原理主義的な改革を断行。国営企業の民営化、規制の撤廃、貿易自由化でチリの産業経済は外資の餌食に。空前の格差社会が生まれていく。第一回は、世界を席巻している新自由主義がいかにして生まれたかを検証する。
https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/R83R575G41/
本書のスペック
本書のスペック | |
出版 | 2007年9月(日本語版2011年9月) |
著者 | ナオミ・クライン |
副題 | 惨事便乗型資本主義の正体を暴く |
ナオミ・クラインは今も活躍しているカナダのジャーナリスト
過激な政策ではなくて過激な「経済」政策というのが注目点です。
ハリケーン・カトリーナ(2005年8月)
アメリカ・ルイジアナ州で起こったハリケーンによる大災害。
ここでルイジアナ州のニューオリンズ市の80%が水没する大惨事に。
そこへ被災地を取材することになったナオミ・クライン。
ある共和党議員が低所得者層の公営住宅が被害に遭った事を喜ぶ姿に遭遇。
低所得者層の公営住宅がなくなって不動産業界が潤う事に喜んだと言う事です。
そこには「利益」を得る事だけが優先され、被災者を救えません。
公共はほころびが出た時に撤退できない。
民間は短期的な利益は出るが、長期的にほころびが出た時に一瞬で撤退できる。
「図式」を書いてみました。
チリのクーデター(1973年9月)
チリの大統領選挙で社会主義政権が発足します。
チリの利権を多く持つアメリカの財界人が危機を感じます。
アメリカのCIAに内部操作よりクーデターが起こり、反対していた人々はサッカースタジアムで拷問・虐殺されます。
1と2の間に恐怖を入れる事が重要になります。
この場合は反対している人たちをサッカースタジアムで拷問・虐殺したことを指します。
シカゴボーイズ
クーデターからの過激な経済政策の主戦力となったのはシカゴボーイズと呼ばれるアメリカのシカゴ大学のフリードマン教授のもとで教育を受けた人たちでした。
シカゴ大学ではチリの優秀なエリート学生を招聘し、奨学金を出して教育していたのです。
宗教や思想を装う事でお金を出すことで学生を囲うという事は各国にあります。
チリのクーデターは顕著な例だと思いますが、日本も笑っていられないと思いました。
結果としてチリはインフレが起こり貧しい人はますます貧しくなって行きます。
シカゴ大学を卒業したシカゴボーイズは全世界へ。
そして各国の高位高官となり行政の中央へ。
1980年代のイギリス
イギリスで初めての女性首相サッチャーの政権はフォークランド紛争の勝利によって飛躍的な支持率を得ます。
フォークランド紛争がイギリス本土でなかった事や国民の共通の「外敵」を持ったことで分かりやすい構造が出来たと思われます。
フォークランド戦争で勝利と支持率を得たサッチャー首相は国内の改革に出ます。
チリでの改革を成功例と考えていた彼女はこの機を利用します。
国内での戦いは炭鉱労働者とのストライキだったのです。
炭鉱の利権を民営化していったのです。
そして、イギリスも富裕層と貧困層の二極化に向かっていきます。
時代背景を知るために
時代背景が分からないとイメージしにくい話も多いと感じたので参考になりそうなものを上げておきます。
よろしかったら、ご参考に。
そして、星の輝く夜が来る 真山仁【著】
そして、星の輝く夜が来る 真山仁【著】
東日本大震災の時に阪神・淡路大震災を経験した教師がやってくる6編のお話です。
そのうちの1つにアメリカのハリケーン・カトリーナの災害ボランティアの経験者が陣頭指揮を獲る話があります。
その時の私の感想を添付しておきます。
サブタイトルは「小さな親切、大きな……」
筆者の真山仁先生も阪神・淡路大震災の被災者でジャーナリスト出身です。
銀河英雄伝説
チリのクーデターで反対する人たちがサッカーのスタジアムで虐殺される話が紹介されました。
SFで古典的な「銀河英雄伝説」にもクーデターから無辜の市民が殺されていく話があります。
アニメ化もされているのでVODで観られる場合は以下の話数です。
第十六話 発火点
第十七話 ヤン艦隊出動
第十八話 流血の宇宙
第十九話 ドーリア星域の会戦
第二十話 惨劇
第二十一話 誰がための勝利
原作を直接読まれる時は「第2巻・野望篇」をどうぞ。
BillyEliot(ビリー・エリオット)
BillyEliot(ビリー・エリオット)
日本では「リトル・ダンサー」という邦題で公開された映画作品です。
ミュージカルにもなっています。
ビリー少年がバレエダンサーを目指すストーリーなのですが、この少年がバレエを習いたいと思ったその当時がまさにストライキ中なのです。
習い事をするどころか、日々の暮らしにも事欠く中、仕事もストライキ中で出来ません。
炭鉱労働者のストライキの渦中の一人だったのです。
息子が本気でバレエを習いたいと知って父がストライキ中に仲間を裏切って仕事に行くのです。
ストライキに参加している仲間たちからは、なじられます。
バレエダンサーになるサクセスストーリーとしての方が有名な話ですが、1980年代がこんなに厳しかったのかと映像で初めて知った作品でした。
オンリー・ア・グローサーズ・ドーター
イギリスのアーティストのブロウ・モンキーズによる楽曲です。
She Was Only A Grocer’s Daughter
(彼女は八百屋の娘に過ぎなかった)
この曲の「彼女」とはサッチャー首相の事だと明言しています。
イギリスのチャートでもヒットしたのですが、テレビ放送が悉く中止されました。
曲の内容もThe day after you(あんたが去ったその後に)などイギリス人らしいシニカルな表現が多いです。
第2回 国際機関というプレイヤー・中露での「ショック療法」
ナオミ・クライン“ショック・ドクトリン” (2)国際機関というプレイヤー
初回放送日: 2023年6月12日ショックドクトリンを国際機関も推し進めることを示したのが97年の「アジア通貨危機」。タイの貨幣は暴落、韓国も国家破産寸前に追い込まれる。そこで何が起こったのか?
アジア通貨危機に対し欧米各国が救済に動かない中IMFが重い腰を上げる。だが融資をするための条件として貿易自由化、基幹産業の民営化など厳しい条件を課した。その結果、いずれの国も外資系企業の餌食に。中露も国家が主導して同様の事態を引き起こしていく。弱体化した国々を援助する目的で創設されたIMFや、西側陣営とイデオロギーを異にする大国が積極的に新自由主義政策を導入するのはなぜか。第二回は、その謎に迫る。
https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/9LGWYYW4G3/
アジア通貨危機(1997年7月)
タイのバーツが暴落し、東南アジアに波及。
韓国も財政破綻寸前になる事態に発展。
IMFによる介入は「民営化」を条件に援助する。
援助するにあたって、条件を飲ませるために政治家に念書を書かせる。
日本も、中曽根政権下で民営化がすすめられていた背景がある。(1980年代以降)
その為に「アジア通貨危機」の鎮静化の方法が悪いと言う方向にはいかなかった。
(電電公社、国鉄など)
何と、IMFはフリードマンの元で教育を受けたシカゴボーイズ主導で動いていたのです。
日本の民営化は好景気の時でしたが、破綻寸前のアジア危機で行われた民営化は多くの失業者を招いてしまったのです。
天安門事件(1989年6月4日)
中国はフリードマンを招き経済改革を勧めた。
政府主導でフリードマン理論が一気に加速し民営化が進むも格差が拡大し天安門事件へ。
6月4日は中国では検索が出来ないために天安門事件を知らない中国の若者も多い。
民主主義と共産主義という相いれない思想は
「欲望」つまり「利益」で一致する。
ソ連崩壊(1991年12月)
ゴルバチョフの改革により15年かけて自由市場を取り入れようと計画。
しかし、スピードが遅いとIMFと世界銀行からも見放される。
代わりに台頭したエリツィンはソ連崩壊というショックの隙に新自由主義政策へ。
エリツィンの合法的な弾劾も議会を軍事制圧で阻止。
オリガルヒという新興財閥の誕生とともに貧困格差も。
第3回 戦争ショック・ドクトリン 株式会社化する国家と新植民地主義
第3回 戦争ショック・ドクトリン 株式会社化する国家と新植民地主義
初回放送日: 2023年6月19日
イラク戦争後、占領政策をまかされた連合軍暫定当局(CPA)のブレマー代表は意図的に無政府状態と恐怖の蔓延を助長し市民は思考停止状態に。そこで起こったこととは?ブレマーはイラク戦争後のショック状態を好機として過激な市場開放を断行。そこに米企業が群がった。一方この戦争の発端である米国同時多発テロによりセキュリティ産業バブルが生じ国防の主要機能の急速な外注化が始まる。「コーポラティズム国家」の誕生だ。政府高官は続々とそれら企業に天下り、そこで生まれる利益を欲しいままに。占領下のイラクも米企業に食いものにされていく。第三回は、戦争利権の正体に迫る。
https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/17267L9JK4/
2001年9月11日アメリカ同時多発テロ
テロのショックに乗じてアメリカ社会が急激な経済政策へ。
戦争の定義が変わる
新植民地主義
見えない回転ドアとは?
民間企業が自社の社員を政府中央に入れ、民間企業に都合のいい法整備をする。
その社員は民間企業に戻り、出世していく。
その繰り返し。
新自由主義経済が政府の完全空洞化へ向かったとクラインは指摘
マネーを最優先することによって貧困格差も大きくなり民営化に対する批判も増えた。
この時期に何と2001年9月11日アメリカ同時多発テロが起こってしまいます。
民営化への不信感が監視へ?
911同時多発テロは空港セキュリティの脆弱性でテロリストをスルーしている。
セキュリティを任されたスタッフが民営化された企業の契約社員で時給6ドルの低賃金だった。
事件現場でも通信インフラに問題が発生、人命救助中に通信が切れる事態に!
利益を追求した結果でしょうか?民営化の明らかな負の部分です。
消防員、警官が懸命に救助に向かうシーンを国民が目にし、公務員は一夜にして英雄になる。
しかし、「公共化」にはなりませんでした。
悪いのはテロリスト。
監視してテロリストをあぶりだそうと言うのです。
連日連夜、テロリストは悪という報道を目にしたアメリカ人たちは監視社会を受け入れると言うまさかの方向に向かっていきます。
問題のすり替えにも思います。
テロのショックに乗じてアメリカ社会が急激な経済政策へ→政府の完全空洞化
戦争の定義が変わる→テロリストがいるから戦争出来る
新植民地主義→現地の人を抜きにして外部からの勢力だけで国政が行われていく
経済面の政策だけに偏っていた結果、イラク国民が疲弊しただけではなくてアメリカ国民も疲弊していくと言う現実が恐ろしいです。日本はどうなんでしょう?
第4回(最終回)に続きます。
アメリカ同時多発テロ関連書籍
アメリカ同時多発テロには関連した文献がとても多いと思います。その中でぜひ読んでいただきたいのが「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」です。
長いタイトルで知らない方からすると何のことか分からないと思います。
911のテロで父を亡くした少年の話なのです。
崩れ逝くビルの中から父は愛する息子に電話をかけていたのです。
そして、その中から父は息子に愛を語っていたのです。
間違いなく死を覚悟したうえで息子の幸せを祈っていた父。
それを受け入れられない息子。
遺されたのは息子だけでなく、父の妻、母もでした。
苦しんでいたのは少年だけではありません。
そんな少年を愛していたのは父だけでなく母もです。
アメリカ人の愛を垣間見た作品です。
これは小説としてベストセラーとなった後、映画化されこれもヒットしました。
ちょうどテロがおこって10年目の2011年に公開されました。
出演:トーマス・ホーン、トム・ハンクス、サンドラ・ブロック
第4回 日本と民衆の「ショック・ドクトリン」
ナオミ・クライン“ショック・ドクトリン” (4)日本と民衆の「ショック・ドクトリン」
初回放送日: 2023年6月26日「ショック・ドクトリン」は、米南部のハリケーンやアジアの津波災害においても踏襲され、津波で根こそぎにされた沿岸集落の被害をチャンスととらえる。その手法とは?
ショック・ドクトリンは被災地の土地をまるごと民間に売り飛ばして高級リゾート開発へつなぐという論理にも応用されていく。だが民衆たちも黙って従っているだけではない。タイでは外資に奪われる前に被災地に「再侵入」。権利を主張しつつ地域ネットワークを使った互助的活動により自力で復興を成し遂げる。第四回は日本の例も交えショック・ドクトリンを逆手にとって民衆たちを覚醒するために利用する方法を模索していく。
https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/EKGKZLJ6G6/
最終回は指南役の堤未果さんが日本におけるショック・ドクトリンとそれを跳ね返す民衆の力を模索した回になりました。
意外や意外、ほんの少し「救い」を感じた回でもありました。
皆さんはどう思われたでしょうか?
市民たちの力でショック・ドクトリンを跳ね返す。
災害ショック・ドクトリン
2005年ハリケーン・カトリーナ(アメリカ・ニューオリンズ)
被災地の復興は「多国籍事業」と「民間軍事会社」の利益が優先されに被災者たちの救済は後回しになる。
公立学校も得点の良い学校が評価されるようになると教師がカンニングを黙認または奨励するようになっていく。
(利益優先にしてしまうと公立としての機能がなくなると言う悪例)
これはかつてアメリカでベストセラーになった「ヤバい経済学」でも指摘されている事です。
教え子の成績の良さや得点でランキングや教師の評価を付けるようになると「不正」が横行すると言うのです。
民営化が良いか悪いか
有事の時に機能するかどうか
有事の時に機能すれば、民営化も悪い訳ではないと言うのです。
災害が起きたから利益を得られなくても被災地や被災民を救済できるのではあれば、民営化も悪くはないのです。
2004年12月スマトラ沖地震(タイ)
被災者自身が立ち上がった例!
津波で自分たちの土地を失った人たちが自分たちの権利を主張し、自分たちの土地の一部を守り抜き、自分たちで復興をしていったのです。
これに感銘を受けたのがハリケーン・カトリーナで被災した人たちが訪れ励まされる事になります。
民主主義の面倒くささでショック・ドクトリンを跳ね返す
犯人探しをしない→正義や悪はその時の立場で変わる→分断化につながる
自分達でも考える→政府任せにせずに自分自身で考える
結果をすぐに求めない→ショック・ドクトリンに狙われやすくなる
情報が最適化される→あえて自分とは全く違う意見の政治家のブログなどを読む
トップダウンは楽→考えなくて良いから→そうすると自分たちは救われない
民主主義は面倒だけれど、自分たちの身を守るために脳トレのように考えていく。
人々が難しい事を考えずに人に任せると独裁を生み出しやすくなってしまう
「ショック・ドクトリン」という考えを知った事が非常に大きかったと思いました。
こういう政策があると知ったうえで一人一人がその時に「流されたりせずに自分で考えて行動する」事がとても大事だと感じました。
最終的に知る事で「救い」を感じた人は私以外にもいらっしゃるのではないでしょうか?
ヤバい経済学
ショック・ドクトリンが紹介される中で公立校でも「不正」が行われる仕組みが紹介されましたが、これを細かく追及しているのがアメリカでも大ベストセラーとなった「ヤバい経済学」です。
これは不正を犯してしまう側の立場からデータで追及して徹底的にあぶり出すと言う手法を取っています。
書籍はデータと論文が並べられる方式で専門書のように感じる方も多いと思うのですが、命題が面白いです。
・日本で言う「キラキラネーム」を付けられた子供はどういう風になるか?
・「不正」を犯してしまう公立校の教師(今回のテーマです)
・「八百長問題」(何と日本の相撲です!)
また、この本は映画化もされています。
この映画が非常に面白くて私はDVDも所有しています。
何度も見返しています。
これでも、何度も言明されますが、「因果関係」を間違わないと言う事です。
例えば、今回のショック・ドクトリンの「教師の不正」でも「教師だから不正」を犯すのか?「不正を犯さないと教師でいられないのか?」とは話が全然違います。
皆さんも是非、こういう考えがあると言う事を知ってまた、このショック・ドクトリンも読んでほしいです。
関連書籍
100分de名著テキスト
ショック・ドクトリン ナオミ・クライン【著】
指南役の堤さんによるショック・ドクトリン本
【堤未果のショック・ドクトリン】
書店で平積みになっていました。
解説書としてとても読みやすくなっています。
【日本が売られる】
初めて購入した堤未果さんの本です。
堤未果さんと出会った記念すべき本です!
「日本が売られる」という衝撃的なタイトルですが、その通りでした。
国民が知らないうちにどんどん売られていく「日本の権利」が売られていくと言う話です。
是非ご一読を!