小梅けいと
【原作】スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
【監修】速水螺旋人
戦争は女の顔をしていない
「戦争は女の顔をしていない」は旧ソヴィエト時代の第二次世界大戦で若い女の子たちが「兵士」として戦場に行った話が綴られています。
この本はノーベル文学賞を獲るほどの素晴らしい作品なのですが、本国のロシアでは度重なる発禁に遭ってしまいます。
そして、作者のアレクシェーヴィチ自身もほとんど政府に追われる形でロシアを離れています。
今はドイツにいます。
(表向きは病気療養のためとしています)
作者自身、
生まれた時はソヴィエト人。
父はベラルーシ人。
母はウクライナ人です。
今、自分の祖国の人同士が戦っている辛い現実が彼女の上にのしかかっています。
この作品がノーベル賞を取った事で世界的にも知られる事になりますが、受賞当時、版権が切れていて日本国内で読むことは限られた人達だけでした。
ですが、本作の版権を岩波書店が取得し、また角川書店がマンガ化をする事で多くの人が目にする事になりました。
もし、興味を持っていただいたら、皆さんも一度手に取って読んでいただきたいです。
何故、少女たちが戦争に行ったか?
第二次大戦中、ロシアは戦場にて壊滅的な打撃を受けていたのです。
補充人員になる兵士がいなくなるほど戦争で被害を受けていたからです。
そこで、白羽の矢が当たったのは「女の子」達でした。
高校生、大学生くらいの女の子が戦争に駆り出されたのです。
4巻の内容
アレクシエーヴィチの過去の記憶から始まります。
この本を書き、一気に200万部の出版が決まった事。
多くの人が書き止めておいてほしくて堰を切ったように話をし出した事。
死ぬ前にきちんと話をしておきたいと言う気持ちがあったのでしょう。
書き直すのではなく、書き足していく。
出版を機に多くの同じ思いをした人たちがアレクシエーヴィチへ手紙を書いたり、訴えだしたりしたと言います。この光景は第2巻でもありますが、凄まじい量です。アレクシエーヴィチが書いても書いても書ききれないというのはそういった背景があります。
戦争にいった女性に向けられた厳しい現実も…。
生き残って返ってきた女性たちには尊敬の目が向けられる事もありませんでした。
「戦場で良い思いをしたに違いない」と言われてさげすまれる事もしばしば。
幸せになった女性はとてもいるようには思いません。
なかには「幸せだった」という女性もいます。
ですが、その人でさえ「幸せと思いたかった」というふうにしか受け止められません。
極寒の地で耐えられない兵士も
男性兵士の事も語られます。
寒さに耐えられない兵士たちもいたのです。
旧ソヴィエト時代、兵士として連れてこられたのは南国出身の人もいたからです。
また、彼らも民間人だったのでしょう。
無理やり連れてこられて寒さのあまりスプーンを口元にすら持っていけません。
彼らも衰弱していったのでしょう。
こういった事がこの第4巻の中に書き連ねられています。
マンガはとても可愛らしいくらいです。
劇画のようなおどろおどろしさはありません。
だからこそ、余計に辛すぎる思いがあるのかもしれません。
ホロモドール
ホロモドールとはウクライナで起こった「人工飢饉」の事です。
ウクライナは肥沃な農業大国で食料に不足することは考えられないのです。
ですが、ウクライナの農産物を政府が奪って行ったのです。
それは餓死者を大量に出すほどで、この作中でも餓死した人たちが道に転がっている様子が描かれています。
それは、遺体を処理する人さえいなかったと言う過酷な現実だったのです。
そして、これが戦争の原因の一つであっただろうことは否めません。
ホロモドールについて描かれた映画もあります。
「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」という映画です。
ホランド監督はポーランドの女性監督です。
美しい映像を背景に残酷な現実が映し出されます。
帯に書かれた悲壮な内容
帯の表
帯の裏。悲壮な内容が綴られています。
ちょっと興味を持った方、手に取っていただけませんか?
私の筆力ではこの作品の重みを伝える事が出来ません。
今、現在、起こっている集結しない戦争の舞台はまさにこの本の中の人達なのです。
戦争は国同士の争いですが結局は戦争の可否とは関係のない一般の人たちが犠牲になっていると言うのは今もこの当時も変わらないと思います。
是非、読んでみてください。