12月4日はハンナ・アーレントの命日。
ハンナ・アーレントの名前を初めて聞く人も多いと思います。
彼女はユダヤ人の哲学者です。
全体主義って?
全体主義を考えるときにハンナ・アーレントの名前は良く上がります。
そもそも全体主義って何だという話なのですが、個人の意見や権利など無視されてすべてが統率統制下に敷かれている政治体制を言います。
反対の言葉は個人主義と言えばイメージしやすいでしょうか?
アーレントと全体主義を考えるとき、時代は第二次世界大戦に遡ります。
行われたナチによるホロコースト(ユダヤ人虐殺)です。
このホロコーストはナチ支配下で政策として行われたものです。
ナチのやった事は許されるはずもありませんが、アーレントはこの問題に切り込んでいきます。
アイヒマンとは?
ナチの将校でホロコーストを実行したアイヒマンという人物がいます。
アイヒマンは非常な虐殺を繰り返した人物として有名です。
絶対悪をアイヒマンだと言っても異論を唱える人は少ないでしょう。
そんな中でアイヒマンの裁判がありました。
大勢のユダヤ人を残虐な方法で虐殺していたアイヒマン。
この時点で全ユダヤ人から憎悪の対象であったと言っても過言ではなかった時期でした。
自分の家族を殺されたユダヤ人も多くいたからです。
アイヒマンの裁判はエルサレムで行われました。
エルサレムはユダヤ人の聖地です。
そこでユダヤ人を虐殺したナチの将校が捕らえられ裁判にかけられるのです。
アイヒマン自身も自分が罪をまぬかれるとか死刑にならずに済むと思っていたわけでもなかったでしょう。
アイヒマンは終戦後、偽名を使って国外へ逃走し家族まで呼び寄せていたのです。
ユダヤ人の怒りは一気に燃え上がったであろう事は想像に難くありません。
アイヒマン裁判を傍聴するアーレント
アイヒマン裁判を傍聴するアーレントはこの時の1冊の著作に残しています。
「エルサレムのアイヒマン」というタイトルです。
哲学の本なのでとにかく難しいですし、高価で入手困難本の一つです。
なので、アイヒマンについてアーレントの物議をかもした経緯にだけ触れて行きたいと思います。
前述のとおり、アイヒマンはユダヤ人にとって絶対悪です。
許される事は愚か、言い訳を聞くという事も耐えられない人も多かったほどです。
ユダヤ人のアーレントもそういう思いがあると多くのユダヤ人も思っていました。
アイヒマン裁判で、淡々と答えるアイヒマン自身。
自分が犯した罪も残虐な行為で悪びれた様子もなく答えるアイヒマン。
ですが、アーレントはアイヒマンの発言を聞いているうちに彼の立場になって考えるようになります。
ナチの将校であったアイヒマンは職務に忠実な人間であった事が分かります。
アイヒマンのやった残虐な行為は変えられません。
ですが、アイヒマンの立場で考えを述べたアーレントは大バッシングを受けてしまいます。
今で言う炎上だったのですね。
ユダヤ人の敵(かたき)であるアイヒマンの肩を持ったという事なのです。
ですが、本書を読み解いていくと、ちょっと違う感覚を覚えます。
アーレントも自分たちを苦しめたアイヒマンを許していたわけではなかったと思います。
それでも、アイヒマンのような、マジメな人間が明らかに残虐な殺戮を繰り返したのかを書き記していくのです。
むしろ、「彼は小役人に過ぎない」であるという事なのです。
アーレントが「アイヒマンを許した」わけでも「アイヒマンを許してやれ」と言ったのではありません。
ただ、アーレントは自分の立場や怒りを超えてアイヒマンの裁判とアイヒマン自身の分析を冷静に書き綴ったのです。
感情論になってしまいますが、ユダヤ人はアイヒマンを絶対に許せる相手ではありません。
その人の立場になるとか言い訳を聞いてやるなど必要ないという風潮もこの時期にはあった事も容易に想像できます。
ユダヤ人たちから糾弾されるアーレント
この当時のバッシングをした人たちも冷静にアーレントの著述を読むという事は難しかっただろうと思います。
ハッキリ言って無理です。
多くの人はアイヒマンを悪魔くらいに思っているわけですから。
この時の大バッシングでアーレントはユダヤ人の社会から糾弾されるほどになってしまいました。
ハンナ・アーレントはこの後も自分の書いた事を撤回はしませんでした。
ハンナ・アーレントも100分de名著でも紹介されました。
彼女のこういった考えはこの番組内で深読みをして初めて知ったという人も多かったと思います。
ハンナ・アーレントの難しい立場、難しい著作、考えれば考えるほど厳しいものでしたが、そんな人生を生き抜いたアーレントでした。
おすすめ映画・著作
アーレントの映画
とにかく著述は一読では理解するのはとても難しいです。
ここでその時代をイメージするのにお勧めしたいのが彼女を題材にした映画を紹介しておきます。
DVDとBlu-rayのみの視聴になりますが、今も観る事が出来ます。
タイトルはそのもので「ハンナ・アーレント」となります。
エルサレムのアイヒマン
アーレントの物議を醸すきっかけとなったのがこの「エルサレムのアイヒマン」です。
決してアイヒマンを庇ったわけではなった。
普通の人間が悪に染まっていく恐ろしさを描いています。
よろしければ、ご自分で読んでみてその答えを出してみてください。