ネタバレどころか全容を知っているという前提で書いていきます。
松本零士作品は時代や作品ごとに設定が変わっていくと言う事を加味したうえで
「さよなら銀河鉄道999」に関する感想と考察です。
振り返り記事としてご参照いただければ幸いです。
冒頭、いきなり動乱が来る
前作の「劇場版・銀河鉄道999」で機械化人の本拠地「惑星・メーテル」を破壊した鉄郎が帰った地球は前とは何の変りもない世界でした。
機械人間が生身の人間を支配している世界とは変わりなかったのです。
鉄郎はパルチザン(レジスタンス)の人達と一緒に戦いますが、自分が機械化惑星を破壊した星野鉄郎だと言っても誰も信じないくらいです。
それほど、世界は変わる事もなく、鉄郎も銃を持って機械人間と戦う日々です。
実はスタッフ側も、前作でケリは付いているのに続編を作る事には意義もあったようなのです。
あのエンディングで終わったはずでした。
機械人間と戦って、メーテルとの感動的な別れ。
この続きが???
そう思っても不思議はないと思います。
ですが、戦いってこういう事なのだと思います。
あれでケリがついた、戦いは終わったと思っていても火種が残っている限りまた戦いが始まってしまうからです。
メーテルからの音声メッセージが鉄郎のもとに届きます。
銀河鉄道999に乗れというのです。
このメッセージはのちにフェイクで鉄郎を誘き寄せるために作られたものでした。
劇中では分かりにくくなっていますが、鉄郎の実の父である「黒騎士ファウスト」が鉄郎に会いたい一心で画策したことがノベライズ本などでは明らかになっています。
999に乗るために鉄郎と共に戦っていた同志たちは鉄郎の本気の思いを受けて鉄郎を旅立たせることを決意します。
それは自分たちがその事で命を落とすことも覚悟の上でした。
そして一人また一人と鉄郎の為に機械人間たちと戦い命を落としていきます。
鉄郎を「息子」と呼び、鉄郎も自分の為に命を懸けてくれた人たちを「親父たち」という程です。
鉄郎の旅立ちは多くの「親父たち」を犠牲にした旅立ちになりました。
ヘビーメルダーは通過
前作の劇場版で「機械伯爵」の時間城で鉄郎の決戦に場の一つとなったヘビーメルダーは荒廃してしまい、999は通過する事になります。
この通過する時に鉄郎はトチローの墓参りに行きたい思いがあった事がノベライズ版で明らかにされています。
また、タイタン(土星の衛星)にいるトチローの母に「いつまでも待っていてあげてください」と心の中で思う事も書かれています。
この時点でトチローのお母さんの安否はハッキリしていませんが、鉄郎は知らせていない事が分かります。
もちろん、伝達手段がなかったのかもしれません。
トチローのお母さんは、タイタンで待っているのでしょうか?
この時に代わりに停車する事になったのが遊星ラーメタルです。
1000年周期のラーメタルはメーテルの生まれ故郷です。
メーテルはラーメタル人である事がここで示唆されています。
ラーメタル人は非常に長寿という設定であるためにメーテルが長い期間を生身の体であると言う事もあり得ない話ではないのです。
ミャウダーは富山敬
ラーメタルで知り合って鉄郎と親友という間柄になったと言って良いミャウダー。
999に乗り遅れそうな鉄郎を彼も命からがら送り届けます。
その時に「俺より先に死ぬなよ。男の約束だぞ」というミャウダー。
この約束はミャウダーが先に死ぬという形で守られてしまいます。
ミャウダーの声は富山敬さんです。
富山敬さんは一番の近作では銀河英雄伝説のヤン・ウェンリー(旧作)でしょうか?
この頃は「宇宙戦艦ヤマト」の古代進役としても既に人気があったベテラン声優さんなのでした。
富山敬さんはトチロー役でも今回もご出演でした。
アルカディア号の心臓部の声はトチローでサイレンの魔女から逃れるために自分自身を停止するために一言ハーロックに語り掛けるだけですが、これも富山敬さんです。
メタルメナは麻上洋子
銀河鉄道999に乗り込むウェイトレスの機械人間の女の子はメタルメナと言って最初から敵愾心があります。
それもそのはず、機械人間は素晴らしいと思っていて自分が欲しいのは永遠の命とメーテルの美しいからだだったからです。
実はこの声を担当しているのが麻上洋子さんで、前作のガラスのクレアと同じ人が担当声優です。
でも、随分印象が違いますね。
ガラスのクレアが終始可愛らしくて鉄郎に好感を持っていた事に対して、メタルメナは正反対です。
最終的に自分には涙してくれる友達もいない事に翻意し、鉄郎たちの為に命を懸けてしまいます。
自分のために泣いてくれた鉄郎に一瞬で心を奪われてしまったのです。
この辺の演技が麻上洋子さんだから染みる感じがしましたね。
機械化母星・大アンドロメダから脱出する時に少しだけ意識のあったメタルメナは999に倒れ込むように乗り込みますが、自分の所為で999がサイレンの魔女に取り込まれてしまうと認識すると自ら999を離れます。
メタルメナが命からがら999に乗り込んだのは少しでも鉄郎のそばにいたかったからで、999を離れたのも鉄郎を助けるためです。
麻上洋子さんもこの時点ですでに人気声優でした。
代表作はこの時点で「宇宙戦艦ヤマト」の森雪です。
黒騎士ファウストは鉄郎の実の父
鉄郎の実の父の記述は原作ではほとんど出てきません。
鉄郎のお母さんの事ばかりです。
ですが、ここで黒騎士ファウストは鉄郎の父であろう事が伏線として何度も出てきます。
勿論、鉄郎の父と言明されるわけでもなく、名乗り出るわけでもありません。
鉄郎との決戦後、サイレンの魔女に飲み込まれる中で「我が息子よ!」と叫んでいくのですが、劇中でもノベライズ版でも鉄郎自身の耳に届いたかは分からないのです。
ですから、鉄郎もハッとした顔をするものの確信していたわけではありません。
ハーロックもわざわざ告げるわけでもありません。
最終的にラーメタル星でミャウダーの墓と形見となったオルゴールのペンダントを掲げる場にハーロックと対峙する鉄郎は敢えて問う事はしていません。
ここからノベライズ版での鉄郎の心境ですが、実はこの時、鉄郎はハーロックに「黒騎士ファウストが自分の父であるかどうか」を聞くか迷うのです。
でも、聞いてもハーロックは答えないだろうと思い聞くこと自体を辞め、笑顔で別れるのです。
ハーロックの名セリフが来ます。
「親から子へ、子からまたその子へ血は流れ、永遠に続いていく。それが本当の永遠の命だと、俺は信じる」です。
メーテルのお母さん
サイレンの魔女に機械化のすべてを吸収されてしまい、あの惑星大アンドロメダは石ころのような小惑星になってしまいます。
あの大アンドロメダとこの石ころの小惑星が同じものだとはとても思えないものでした。
ここも劇中では詳しく語られませんが、プロメシュームとメーテルは機械化に反対した人たちに追い出され、小さな宇宙船でこの石ころのような小惑星に辿り着いたのです。
プロメシュームが機械化を推進していったのは実は人々に少しでも良い暮らしをしてほしいと思ったからでした。
メーテルが言う「良かれと思って」と言っていたのは決して嘘ではなかったのです。
「良かれと思って」人々を機械化していった。
飢えもない、病気もない、寒さで凍える事もない機械の体を人々に与えて行ったのです。
ただし、自分自身も人の心を失ってしまったのです。
「やっと終わったのよ」というメーテルのセリフはそれだけ重いのです。
ノベライズ版では「鉄郎のお母さんよりもいいお母さん」という記述もありました。
実はそれも嘘ではなかったと思います。
プロメシュームは1000年女王です。
その時は間違いなく人々の為に戦っていたのです。
寒さに震えるラーメタルの人々を機械化する事で守りたいと思っていたのです。
でも、自分自身の心も機械化してしまい、人の心を失って行きました。
それでも、「母親の心」があるうちにメーテルを脱出させたという経緯があります。
生身の人間であるうちは自分が機械化していくうちにメーテルを手放した一方で機械化する自分自身はその心さえ失っていくのです。
こう考えれば、プロメシュームが機械化帝国を潰すために「心があるうちに」メーテルを外に出したと考えても良いのかもしれません。
それにしても犠牲が多すぎましたけれど。
メーテルは業が深すぎる
機械化帝国を潰すためにメーテルは前作で「惑星メーテル」を爆破しています。
その為にその中枢のネジとなった人たちはメーテルの同志であり、メーテルに恋い焦がれていた少年たちであったであろうと思われます。
その犠牲になった人数はいかばかりか分かりません。
メーテルの父も前作で爆破。
メーテル自身の分身も殺しています。
そこまでの犠牲を敷いて爆破したはずの「惑星メーテル」でしたが、ここで「大アンドロメダ」があった事はメーテル自身も蒼天の霹靂だったのです。
最終的にプロメシュームは自分自身の欲望に飲み込まれていった形になりましたが、メーテルの業は深すぎます。
メーテルもまた鉄郎とともにありたいという気持ちもあったと思います。
最終的にエメラルダスに諭されます。
本当はエメラルダスに言われなくても、自分に安寧の未来はないことなどメーテルには分かっていました。
それをきっぱりと言葉で「絶対にない」とメーテルに断言するエメラルダス。
もし、鉄郎について行った場合、メーテルが死ぬほど後悔する事が目に見えていたのでしょう。
銀河鉄道999は周りのキャラクターに惑わされがちですが、大筋は「鉄郎の成長物語」です。
そして、少年は大人になります。