大地の子
マンガ「大地の子」を書店で見つけました。
山崎豊子による中国残留孤児の話です。
1991年に初版が発行され、NHKでドラマ化され大変評判を受けた作品です。
日本人でありながら中国に残された陸一心(ルー・イーシン)を中心とするお話です。(日本語吹き替え版では「りく・いっしん」と発音されます)
日本が敗戦して中国国内にいた日本人はその居場所を奪われます。
財産も土地も命さえも奪われていきます。
日本人への憎しみが消えない中で日本人の子供を自分の子供として育て慈しんでいく事がどれだけ困難であったかとこの作品で知ることになりました。
内容【大筋です】
主人公・陸一心は幼い時に親と別れてしまい、日本人としての記憶がほとんどありません。
自分の名前すら忘れてしまいます。
それは日本の敗戦による引き上げの途中で親も知り合いもどんどん殺されてしまったからです。
途中で力尽きた者、自ら命を絶った者もいました。
そして母を失い、妹とも生き別れになってしまいます。
一人になってしまった少年は飢え死にしそうになったり、人買いに売られたりしながらも生きていきます。
そして、養父である陸徳志(ルー・トゥーチ)に救い出されます。
ですが、貧困の中ですぐに少年を養子に迎えられた訳ではありません。
何度も手放そうとするのですが、どうしても見捨てられず養子に迎えます。
ここで少年は「陸一心」という名前を与えられます。
中国で日本人の孤児を養うのは困難ばかりです。
それでも実の子と同じように愛情を注ぎます。
日本人である事が分かると不利益がかかる事ばかりです。
無実の罪に問われて投獄されもしました。
でも、この養父母は我が子の無実を一切、疑いませんでした。
更に無実を訴えるために寒い中を何日も路上生活をしました。
力を貸してくれる人も現れ、陸一心は解放されますが、その期間は7年になりました。
残留孤児である陸一心は日本の実父、実妹に会う事になりました。
でも、実妹は会った時にはもう虫の息でした。
そして実父が現れたのは妹が旅立った後でした。
実父は松本耕次と言いました。
陸一心にとって職場で一緒に仕事をしている人でした。
肉親に相次いで会った事で陸一心の記憶も蘇ります。
自分の名前が松本勝男という事も思い出します。
実父・松本耕次は中国にいる自分の家族は死んでいると信じてしまったために探し出すのが遅れてしまったのです。
自分の妻と子供たちが死んだと思い、弔いまでして再婚に至った実父でしたが、再婚相手にも先立たれてしまいます。
孤独の中で実子が生きていたと知った実父はつい「一緒に暮らしたい」と口に出してしまいます。
実父と養父が少し話をする場面があるのですが、なかなか本心をお互いに言えません。
そんな中で養父・陸篤志は笑顔で一心と一緒に暮らしても良いと言い出します。
養母は息子を取られるんじゃないかと生きた心地がしません。
また、その覚悟を聞いて実父は本心を言えなくなります。
陸篤志は陸一心と出会った事や初めて「お父さん」と言ってくれた時の事を話します。
話しながら大泣きをします。
それでも、最後は笑顔で松本耕次を送り出します。
陸一心と実父・松本耕次はその後も仕事関係で会う事が多くなります。
一見、絆を深めているようでしたが、陸一心が選んだのは中国でした。
「私はこの大地の子です」と中国に残る事を選びます。
ここで物語は終わります。
感想
マンガ版は原作に忠実であると感じました。
ドラマ版のエンディングは陸一心が中国で生きる事を選び、製鉄所の仲間たちの元へ戻るところで終わります。
このドラマ版の終わり方には原作者の山崎豊子先生はお気に召さなかったという話も伝え聞いています。
山崎豊子先生がこの漫画にどういう感想をお持ちかはもう知る術もないのですが…。
またこのマンガ版ではドラマで演じた役者さんに寄せているなと感じる部分も多くありました。
特に養父・陸篤志の破顔や大泣きをする顔はドラマで観たままでした。
この「大地の子」では中国残留孤児が生き抜いた感動的な話になっていますが、山崎豊子先生の後のインタビューでも自分が何処の何者かも知らずズタボロになって死んで行ってしまった人のいかに多いかを話しておられました。
「大地の子」でも困難しかないのに、これがまだマシな方の話だと知って愕然としました。
「大地の子」は小説なので陸一心やその周りの登場人物は実在していませんが、明確なモデルはいます。また、起こる事件なども実際に起きた事を素材にして描かれています。
ドラマNHK1995年版・詳細
NHKでドラマ化されたこの作品は今も視聴可能です。
U-NEXT 大地の子役名 | 俳優 | |
---|---|---|
松本耕次 | 仲代達矢 | 陸一心の実父・ドラマ版では主人公にクレジットされている |
陸一心(松本勝男) | 上川隆也(少年期:笠原秀幸) | 中国残留孤児・現実的に主人公 |
松本タキエ | 田中好子 | 陸一心の実母・引き揚げの際に亡くなる |
松本耕平 | 牟田悌三 | 陸一心の祖父・引き揚げの際に亡くなる |
大沢咲子 | 飯塚雅弓(帰国後:十勝花子) | 信濃郷開拓団員生存者 |
張玉花 | 永井真理子 (幼少期:新井裕紀子) | 陸一心の実妹 |
陸徳志 | 朱旭(吹替:小川真司) | 陸一心の養父 |
王淑琴 | 呂中(中国語版) | 陸一心の養母 |
袁力本 | 馮国強(少年期:張利敏) | 陸一心の幼馴染・人民解放軍幹部 |
江月梅 | 蒋雯麗(中国語版) | 陸一心の妻 |
趙丹青 | 盖麗麗(中国語版) | 陸一心の学生時代の恋人 |
馮長幸 | 廖京生(中国語版) | 趙丹青の夫 |
陸秀蘭 | 高常林 | 陸篤志の姪・のちに袁力本の妻 |
陸燕々 | 張宇非 (幼少期:趙娃) | 陸一心の娘 |
黄書海 | 薄宏 | 陸一心に日本語を教える。労改(刑務所)時代に出会った。 |
紅谷擁 | 山下輝彦 | |
工場長 | 角野卓造 | |
狭間信一 | 渡辺文雄 | |
斎木吾郎 | 児玉清 | |
稲村嘉三 | 西村晃 | |
柿田潔 | 宇津井健 | |
スタッフ | ||
原作 | 山崎豊子『大地の子』 | |
脚本 | 岡崎栄 | |
音楽 | 渡辺俊幸 | |
演出 | 松岡孝治、潘小揚、榎戸崇泰 | |
翻訳 | 李珍 | |
時代考証 | 竹内実 | |
制作 | NHKエンタープライズ21 中国中央電視台 |
陸一心の中国での養父を演じた朱旭さんは中国で国民栄誉賞を受賞したほどの名優でこの方の演じる愛情深いその姿に心を打たれた日本人は多いと思います。