
手塚治虫が有名になり、虫プロダクションが世界に名を馳せていた1973年。
倒産の危機に陥ります。
手塚治虫は終わった…と言われた時代

手塚治虫が終わったとか、時代に取り残されていたと言われたその時に書かれたのが、自身の戦争体験を題材にした作品「紙の砦」です。
この「紙の砦」と、手塚治虫の苦難の時代をオーバーラップさせた話が、今回のドラマになります。
「紙の砦」という作品は43ページの読み切り作品です。
この全ページが公式でも公開されていて、誰でも読むことができます。
過去のトラウマがリンクする

今回のドラマは意外に踏み込んでいて、戦争時の漫画の規制も、暴力的な上官の制裁も描かれます。
漫画は不必要な娯楽とされ、悪いものとされます。
ハッキリ言って、何かにつけて鉄拳制裁をするための言いがかりにされているようなものですね。
男子が女子と話をしているだけで非国民、漫画を描いても非国民。
手塚治虫は大寒鉄郎として「紙の砦」に主人公として出ています。
これを「おおさむ・てつろう」と読むわけですから、「てづか・おさむ」⇒「おさむ」⇒「おおさむ」⇒「大寒」という苗字に変換しているということなのだと思います。
こういう名前のトリックも、手塚治虫らしい手法です。
感想


以下、ドラマの感想になります。
マンガを否定されながらも漫画を描き続ける手塚治虫(再現ドラマでは大寒鉄郎ですが、以下、手塚治虫とします)。
仲間にも裏切られて、密告されるような事態にもなります。
印象的だったのは、漫画を描いていることを密告した人物とも仲良くなり、かばい合う間柄になるところです。
この人物が出征を決めたときに、自分の似顔絵を描くことを手塚治虫に依頼します。
この似顔絵を、残していく母に渡すのですが……。
出征するときは写真を撮って遺影とする人も多かった時代なのですが、戦争末期になってくると、写真を撮るための物資はなかったんだろうなと思います。
似顔絵を描くというパターンは初めて知りましたが、こういうこともあったんじゃないかと思いました。
大阪空襲も、終戦の前の年の出来事です。
死ななくていい命が、ここでも山ほど亡くなっていくのです。
命を奪われた人、夢を奪われた人も……。
この夢を奪われた人の代表格が、京子ちゃんなのだろうと思います。
京子ちゃんは手塚治虫にとって憧れの女性で、バレエも歌も上手な女性です。
将来はスターになることを夢見ていたのですが、空襲で顔半分が焼けただれてしまいます。
終戦のその時まで手塚治虫と一緒にいた女性だったのですが、いつしかどこかに消えてしまいます。
命があっても夢破れ、生きていく希望がなくなってしまったのですね。
こんな悲劇もあったのです。
また、驚いたのが、大阪空襲をした米軍パイロットが捕まり、叩きのめされて息絶え絶えになるというシーンが、NHKのドラマで放送されていたということです。
これには少し説明が必要だと思います。
B-29というアメリカの爆撃機で大阪に爆撃した際、その爆撃機が撃墜されて、パイロットだけがパラシュートで脱出することがあったのです。
空襲を受けた住民たちにとっては、爆撃を行ったパイロットが無傷で脱出して手を挙げたところで、許せるわけがありません。
米兵のパイロットは、住民たちにとって大事なものを壊し、奪った人間なのですから。
原作の「紙の砦」では、すでに絶命しているような描写でした。

戦争がいかに人を残忍にさせるのか……ということなのです。
最後に戦争が終わり、生き残った手塚治虫は大喜びです。
夜に明かりがついても爆撃を受けない。
それが、戦争が終わった何よりの証しでした。
でも、大やけどを負った京子ちゃんは、夢も未来もなくしてしまったのです。

戦争が終わったから良かったと喜ぶ手塚治虫と、手放しで喜べない京子ちゃん。
戦争の悲劇は、戦争が終わっても終わらない……私はそう思いました。

