100分de名著「独裁体制から民主主義へ」ジーン・シャープ

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第1回 独裁体制は見かけほど強くない

名著126「独裁体制から民主主義へ」ジーン・シャープ - 100分de名著

一見強固で揺るがないようにみえる独裁体制には、子細に分析すると、ある弱点が存するシャープは言う。独裁体制は単独では成り立たない。有形・無形の民衆たちによる支持があってこそ成り立ってる。その力の源を断つことで容易に瓦解する脆弱さが潜んでいるというのだ。独裁体制に終止符を打てるかどうかは、そのことに民衆が気づくことができるかどうか、その上で、集団として行動を起こすことができるかにかかっているという。第一回は、シャープの深い洞察がこめられた権力観・政治観を通して、独裁体制のあり方やその弱点を見抜く方法を学ぶ。
【指南役】中見真理(清泉女子大名誉教授)(清泉女子大名誉教授)…著書『柳宗悦』、論文「ジーン・シャープの戦略的非暴力論」など。【朗読】西村まさ彦(俳優)【語り】加藤有生子
初回放送2023年1月9日(月)

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/blog/bl/pEwB9LAbAN/bp/ppeyN8xGQp/
グレース
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ノーベル平和賞に4回ノミネートされたジーン・シャープ理論。
ジーン・シャープに直接会った事もあるという中見真理さん。
シャープはとても穏やかで人の話を熱心に聞いてくれる人だったそうです。

シャープの経歴

ジーン・シャープ(1928~2018)90歳
1928 アメリカ オハイオ州生まれ 父は牧師
1951 ガンディーに傾倒
1953 良心的兵役拒否で収監
1983 アルバート・アインシュタイン研究所を創設
  (最初にアインシュタインが応援してくれたから)
1986 イスラエル占領下のパレスチナ初訪問
1989 北京天安門事件を実見
1992 ミャンマーの民主化運動で非暴力闘争を指導
1994 『独裁体制から民主主義へ』
  タイ・ミャンマーで小冊子として発行
1999 セルビアで「オトポール!」活動開始
2004 ウクライナでオレンジ革命
2011 エジプト革命

シャープの非暴力

中見真理さんは日本の平和論に疑問を持ってシャープに関心を持ったそうです。

シャープへの関心と日本の平和論

宗教的道徳的にとても立派な人
捕まったり殺されたりする人が評価される

一般の人々は平和と関わるのは恐ろしく感じる。

シャープの理論は一般の人が担える非武装平和論

グレース
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一般の人は命を掛けなきゃいけない平和活動に簡単に参加することは出来ません。
一般の人が参加できることが重要です。

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ミャンマーの民主化活動が執筆の切っ掛け

「非暴力」という言葉を「政治的抵抗」という言葉に置き換える事で積極的な参加を促すことが出来る。

本当は独裁体制は脆い

権力はより強い力で倒すべきという気持ちが一般人にはあるのですが、シャープはそうではないと言います。
一般人がいるから権力者がいる。
権力者にとって一般人が支えなければ権力者は倒れるという事です。

グレース
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これはヘーゲルの共依存に共通するものだと思いました。
支配者が奴隷を支配しているのではなくて、奴隷が働いてくれるから支配者が成り立つ
依存は多くの場合共依存であるという事なのです。

独裁体制に服従する7つの要因
1・習慣
2・制裁への恐れ
3.道徳的義務
4・自己利益
5・支配者の心理的一体感
6・無関心
7・不服従への自信の欠如

特に注目されたのは「3の道徳的義務」です
道徳的なモノをすり替えて民衆は我慢しがちです。
日本の戦時中の「欲しがりません。勝つまでは」というような感覚もこれに当たりそうです

非暴力は時間がかかると思われる場合があるが成功例を番組内で2つ挙げている
  • 1986年
    フィリピンのマルコス政権崩壊
  • 1989年
    チェコスロバキアのビロード革命
  • 結果
    数週間で終わっている。

感想

「非暴力」というと、やられっぱなしや殴られてもやりかえさないとか、そういう意味かと思っていましたが、違いました。
暴力や武力で対抗すると元々軍事力や組織を持っている相手にはかなうはずがありません。
更にやられてしまうか、共倒れになってしまいます。
こうなれば、相手も傷つきますが、自分自身も倒れてしまいます。
そこで具体的な「非暴力」の方法として挙げられたのがこの「独裁体制から民主主義へ」です。
この中でも非暴力行動198の方法はだれでも閲覧可能であります。
番組内で紹介されたデモやストライキだけではなくて断食非暴力的嫌がらせなどもありなかなか興味深いものです。
更にこれらの事は政権奪取や民主化への動きだけではなくて、職場や家庭内でも使えそうなことがいっぱいあります。

ただし、悪用禁止です

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第2回 非暴力という「武器」

名著126「独裁体制から民主主義へ」ジーン・シャープ - 100分de名著

ジーン・シャープ“独裁体制から民主主義へ” (2)非暴力という「武器」
初回放送日: 2023年1月16日

非暴力闘争は受け身でもなければ絶対平和主義でも宗教的理想でもない。シャープによればそれは「暴力なき戦争」。冷徹でリアリスティックな状況分析に基づくものなのだ。

非暴力闘争は、小さな運動の段階的な積み重ねを通じて大規模な抵抗勢力を形成、権力を支えている力の源を断っていく徹底的に戦略的な方法だ。そこには戦略、戦術、武器の体系など、通常の戦争と全く同様のプロセスが展開される。残虐行為による犠牲も生じるが、それすらも運動に利用する冷徹さも辞さない。第二回は、非暴力闘争がなぜ有効かを解き明かし、そのための全体計画や戦略的思考をどう練り上げればよいかを明らかにする。

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/W4NKVJ7ZML/

非暴力に対する誤解を解く

非暴力は「何もしないこと」でも「受け身的なモノでもない」
様々な戦略を駆使した暴力なき「戦争」

暴力なき「戦争」

軍事と同じように戦略を練って訓練も必要

抵抗勢力が暴力を選んだとしても圧倒的な軍事力を持つ相手では制圧されて終わるだけ。
だが、抵抗する方法の手段を「非暴力」に変える事で抵抗勢力を抑える事が出来なくなる。

具体的な198の方法

ジーン・シャープは具体的な方法を198も提言しています。
このすべてを遂行するという事ではなくて、計画的に戦術を持つ事でピックアップしていく事が必要なのです。
やみくもにやってはいけません。

感想

非暴力という事で相手と同じ土俵に立たないばかりか、相手を翻弄するということが分かりました。
非暴力というのが「ただ殴られるだけではない」のです。
この具体例として制圧する側を味方に引き入れてしまうというのはこれからも私たちも使える方法に思いました。
警察や軍隊などの武力的な勢力を持つ人たちも元を正せばその国の人達なのです。
非暴力で来る人達と同じ、家族や愛する人たちがいる生身の人間であるという事なのです。
また、非暴力な抵抗であり続ける事が大事です。
ほんの少しの暴力であっても、暴力に対しては「こいつは暴徒だから粛清していい」という口実を相手に与えてしまってはいけません。

デモに参加する人たちの中でこういう暴徒と見間違う人たちを観る事があります。
相手に罵声を浴びせたり、力でねじ伏せようとしたりする人たちです。
それでは平和的な解決にはなりません。
やっぱり、ああやって平和的な運動に見せかけて暴力をふるうようなことって言うのは絶対にあってはならないんだなと痛感しました。
また、非暴力で政府を倒すという事で、政府の機能も破壊しなくて済むというのも意外と忘れがちな事です。
抵抗勢力で政府を倒して破壊してしまうとインフラの時点から再出発しなければならず、無駄な時間と労力をそぐ事になります。
そして、その犠牲の多くは一般市民に強いられます。
「非暴力」に徹するというのは簡単ではありませんが、やってみる価値は大いにあると思いました。

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第3回 非暴力ゆえの勝利

名著126「独裁体制から民主主義へ」ジーン・シャープ - 100分de名著

ジーン・シャープ“独裁体制から民主主義へ” (3)非暴力ゆえの勝利
初回放送日: 2023年1月23日
独裁体制を崩壊に導くものとは何か。限定的な目標を積み重ねてきた抵抗運動が社会全域に拡大し、同時に育った市民による独立機関が「並行政府」が機能することだという。 ソ連からの軍事侵攻を非暴力ではね返し独立を勝ち取ったリトアニアでは「サユディス」という市民組織が運動の中核として機能、やがて「並行政府」としての役割を果たし統制のとれた粘り強い運動が継続した。つまり成功の肝は、非暴力闘争が「堅固で鍛錬されたものであり続けること」。決して一時的な盛り上がりや無計画性に溺れてはならないという。第三回は、最終的に独裁体制を崩壊させる決定打となるものとは何かを考える。

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/ZNGVY2R977/

一般の人でも出来る事

小さな目標を一つ一つクリアしていく
誰でもできる、シンボリックな事で対抗できる。

また、シンボリックなものが必要になってくる。

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独裁体制の後に

隠れた不服従

敵に気づかれずに相手のうちに入り込んでいくということが大事になってきます。
警察や軍隊などに直接的に対峙しても武力では勝てるはずもありません。
これは第2回でも詳しく説明されましたが、この成功した後に更に非政府組織の存在もシャープは重要視します。

非政府組織とは
芸術家団体
文筆家協会
労働者組織
商工会組織
各種の愛好家団体など

公的な政府組織ではない一般人の団体が重要になります。

非政府組織を既存の政府と競合する二重政府のようなものを作ります

並行政府
既存の政府と競合する二重政府

グレース
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この考えはとても良いと思います。独裁政権を倒したのちに新たな政権が独裁政権を持つという事では本末転倒です。
こういう事を考えるとお互いの考えや政治の方法に意見し合える団体を持つというのは非常に合理的だと思います。

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並行政府の成功例

サユディス(運動という意味)→リトアニアがソ連から独立する際、中心的な役割を果たした組織

市民力による防衛
ソ連からの攻撃には非暴力で抵抗する事
新政府が発した法律の身に従うようにメッセージを出す

シャープの非暴力行動198の方法のうち、198番目、最後の一つが
「二重統治や並行政府を打ち立てる」です。

リトアニアの非暴力による抵抗行動を現実にするために多く読まれた本

通信手段を独自のものにする

ソ連が情報操作をしないように独自の通信手段を作り、ソ連からのプロパガンダを避けることにも成功した。

ゴルバチョフはリトアニアに軍事介入するもリトアニアは誹謗力で抵抗。
そのゴルバチョフはク―データーにより軟禁されるも非暴力によって解放される。

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感想

冒頭でも話されましたが、ゴルバチョフが軍部の裏切りによって監禁されるも解放されたのは非暴力によってという事が主軸でした。
ゴルバチョフは西側の人間からすると閉鎖的だったソ連を開放したイメージのある人物です。
でも、その人物がリトアニアに対しては軍事で支配しようとしていた事実に驚きました。
日本ではあまり報道されなかった事です。
この事実があってこそ、欧米でのゴルバチョフ批判が大きいのも頷けました。
また、このゴルバチョフが政権引退後も粛清される事もなく天寿を全うできたのも「非暴力」あっての事だったのかと思いました。
また、非暴力闘争というものは素晴らしいけれど、決してその時のノリや流行りだからやってしまうのではなくて参加する一人一人がきちんとどういうことが必要かを理解したうえで行う事の重要性が再確認されました。

半信半疑で始めた運動は実を結ばない
独裁体制の崩壊がゴールではない

第4回 非暴力闘争の限界と可能性

名著126「独裁体制から民主主義へ」ジーン・シャープ - 100分de名著

ジーン・シャープ“独裁体制から民主主義へ” (4)非暴力闘争の限界と可能性
初回放送日: 2023年1月30日

「独裁体制から民主主義へ」の出版から時を経て、独裁権力側も非暴力による市民運動について研究を重ね、初期段階からその芽が出ないように機先を制する動きも出ている。

運動つぶしのための反対キャンペーン、大多数の人に対し抑圧が巧妙に隠蔽される先進国、自発的に隷従を求める人類の本能的性向、圧倒的な威嚇によって生み出される恐怖心といった問題に対して、シャープの方法は課題を残す。独裁権力側から研究され、機先を制されるようになって以降、こうした問題をどう克服していったらよいのか? 第四回は、シャープ以降の思想動向なども交えて、非暴力闘争の課題と可能性を見つめる。

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/plus/

独裁体制を倒した後にしなければならない事

独裁体制が崩壊した直後が一番危ない時期であると指摘

  • 政治的な空白を作らないことが重要
  • 軍部によるクーデターにも注意
  • 旧体制の高官達の処遇(情状酌量のある場合)

1994年 南アフリカ初の普通選挙によってネルソン・マンデラが大統領に就任
自分たちを弾圧してきた白人の旧高官を手厚く処遇。
結果、国内に対立の火種を残さずに融和策を推し進めた。

情状酌量のある有能な人物を旧体制側(独裁側)の人間であっても起用する事によって新しい政府を機能的に動かすことが出来る。

政治的空白を作らずに済む

分かりやすい憲法
三権分立や庶民が読んでも分かりやすい憲法で体制を作る。
国民が憲法を認知する事で法律が機能してくる。

自由はタダではない

自由はタダではない
自由や平和とモノには維持する努力やコストが必要
日本の平和憲法は棚からぼたもちのように得られている。
日本人は国際関係について自分たちから働きかけて望ましい環境を作るという意識が弱い。

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シャープ理論の弱点

民主的に選ばれた人間が独裁に走るケースもある。
例:ドナルド・トランプは民主的に選ばれた大統領であるが、シャープはこの件に対して言及せずにその翌年にシャープ自身が死去。

シャープ理論の失敗例
  • イラン大統領選挙結果への抗議デモ(2009)では国内外からの支持もあったが、政治的柔術が働かず政権崩壊にまでは至らず。
  • シャープ理論が独裁者によって研究されていて手の内が読まれる。
  • 有名になりすぎて、体制側に研究されてしまった事が原因。

非暴力側も進化が必要

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非暴力が有効である事にはデータでも証明される

マリア・ステファン
エリカ・チェノウェス
1900年から2006年までの抵抗運動の成功率を分析。
参加者1,000人以上、323件

非暴力での成功は53%
暴力での成功は26%

非暴力の方が効率も良く、犠牲が少ない事もあげられる。

暴力的な成功では新たな抑圧的支配体制を産んでいるのに対して
非暴力的な成功では民主主義体制を培っている事も明らかになる。

すぐに結果を求める世の中では独裁者を産みやすい。
私たちに出来る事はこういった知識をもち、他人に考える事を任せるのではなく自分自身も考えていく。
ダメな事はダメという。

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感想

独裁政権を倒した後に独裁政権側にいた人間を粛正するようなことでは元も子もありません。
倒された独裁政権側の人間も今度は「恐怖」しかなくなります。
なかには責任を取らなければならない立場の人もいるかもしれませんが、独裁政権側の人間にも新しい政権で働ける人達には働いてもらうという考えが良いと思いました。
また、独裁政権を倒した後には新しい規律が必要である事も全くその通りです。
独裁政権を倒したヒーローが一時的な称賛の後にその人たちが新たな独裁政権を担う事になってしまってもいけないからです。
ここでの「新しい規律」は「憲法」であるというのも印象的でした。
「刑法」でも「民法」でもなく、「憲法」です。

それも分かりやすくするための「憲法」というのもその通りです。
日本でも現行の憲法は「ひらがな」が採用された最初の法律です。
それまでの法律は「カタカナ」でした。
ですから、非常に読みにくいものでした。
そう思うと、日本の憲法は一般人も読みやすくするための最初の法律として成功している例ではないのかなと思いました。
ただ、この日本の憲法を「棚からぼたもち」的な経緯だと中見先生が言われた事も印象的です。
日本は敗戦後、アメリカに占領されますが、他の国の事を思うと憲法の制定をきっちりして国民への略取などはマシな方です。(それでも、かなりの酷い思いをさせられていますが…)

「自由はタダではない」大きな犠牲の上にあるというのもその通りです。
戦った人たちは少なからず命を落としています。
全員ではないにしても、命までは取られずとも、権利や思い、家族との訣別などがあります。

2018年、90歳で天国へ旅立ったシャープでしたが、その後の2021年には本国アメリカで議事堂襲撃事件が起こってしまいます。
自国内で起こってしまった内乱に対してシャープはどういう見解を持ったのでしょうね。
シャープが武力を使ってはいけないと徹して言った事がアメリカ国内で反映されなかった事はやはり残念としか言いようがありません。

非暴力の方が武力闘争よりも成功率が高いというデータも興味深いものでした。
考えてみればその通りで、武力で破壊された上での再建よりも非暴力で政府を入れ替えた方がインフラ整備もいりませんし、犠牲にするものも少なくて済みます。
非暴力というのは何も倫理的、道徳的な事でもなくて非常に合理的であるという事もよく分かりました。
ですが、非暴力で成功したのちに調子に乗ってその人たちが自分の権限を越えて独裁するような事になる事だけはないように重ねて吟味しなければなりません。

独裁を許してしまう構図として「人が楽をしたくて他責になる」という事がありました。
これは「ショック・ドクトリン」の中でも言われていて、人は便利になりすぎると「自責」から「他責」になる傾向があります。
これはその方が簡単で楽だからです。
便利な事や楽な事は決して悪い事ではありませんが、事が「権利」になった時にもうちょっと真剣に「自責」で考え続けていたら、社会構成の一人として独裁は阻止できるかもしれません。

シャープ理論が広く知れ渡り、非暴力理論が独裁政権側にもよく知られるようになり、対策をうたれているとも言われます。
これが手の内を読まれるということにもなります。
ですが、「非暴力」が独裁政権にとって脅威であるという事も言えるのではないでしょうか?

グレース
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非暴力のリストはなかなか面白いものになっています。
198のリストを読んでみたい人はどうぞ。

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関連書籍

今回のテキスト
本書
40言語以上に翻訳されている
リトアニア独立時に要約・翻訳して国内の活動家に配布
バルト三国の独立へつながった
非暴力をデータ分析で徹底的に解析
非暴力が有効であることを明確にした