「白い巨塔」を考える。ドラマには出てこなかった名医の話。

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「白い巨塔」と言う話

「白い巨塔」というドラマをご存じの方は多いでしょう。
山崎豊子の原作による作品で、日本の医学界の問題を提起した作品と言って良いでしょう。

多くは分かりやすい対比で財前教授と里見教授が描かれます。
ドラマ化された年代によって若干の設定の違いはありますが二人の対比はこんな感じです。

財前五郎教授
財前教授は大学のエース外科医。
医師会の有力者の元へ婿養子に行き、順調に地位を上げる。
外科医としての腕は日本を超えて海外から招聘を受けるほど。
合理性を重視する事で患者の気持ちを軽視する事も。

里見脩二教授
大学の内科医。
最初は基礎研究をしていたが、患者と対峙したいと思い内科医に転身。
朴訥で権力争いとは関わらないようにしている。
研究面、治療面でも慎重で正確な為に最終的には財前教授も里見教授に自分の病状をゆだねるほど。

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里見教授のお兄さん。

里見教授には一回り以上離れたお兄さんがいます。
このお兄さんも医者です。
ドラマには出て来ることがなかったお兄さんですが、原作ではほんの少しだけ出てきます。
この少ししか出番のないお兄さんである「里見清一」を白い巨塔の中で一番好きな人物と上げる人が多いのです。

里見清一さんは原作で出てきた時点で小さな医院の先生です。
今で言う個人のクリニックや町医者という立場です。
ただ、この先生は数多くの症例を診て来ただけあって患者さんからの信望も厚い名医です。
またドラマの里見教授のお兄さんと言う事もあって患者さんへの態度が本当に優しいのです。
里見教授のスーパー版と言っても良いくらいの先生です。

このお兄さん先生が出てきたのは何と「教授選」。
大学の教授選には大学関係者だけでなく、こういう地域の小さな病院の先生でさえ、巻き込まれていたのです。
この時に訊ねて来た弟(里見教授)に自分と同じように教授選に巻き込まれている小さな医院の先生から来た手紙を見せます。
どの教授に付くかで患者さんに配る薬の提供先まで制限されてしまうと言うのです。
どんなに、「患者さんのため」と医師が思っても権力がそうさせないという不毛なやり取りがここでも明かされます。

里見教授自身も自分の患者さんにお金がなかったら自分のお給料から工面するくらいの人間です。
お兄さん先生はもっと立場の苦しい人達の為に苦心している事が分かります。

日本の医療体制で疑問に思った人も多いかもしれません。
この舞台となった時代は1960年代です。
今ほどの保険体制や支援体制がなかったためにお金がないから治療すら受けられないと言う事が当時あったのです。
そして、権威や権力で命の危険が左右されると言う事がまだ往々にしてあった時代の話です。
(もちろん、今もないとは言えないのですが…)

白い巨塔の中には「外科医」としての財前教授への賛美が繰り返される一方で「本当は病気を見つけた内科医の手柄」である事を財前教授が一番よく分かっていると言う話も出てきます。
つまり、財前教授は自分自身の出世欲や合理性で人の命を左右する事も多々ある一方で一番信頼しているのは親友の内科医「里見教授」であるのです。
自分が病気で倒れた時、部下も上司も本当のことを言ってくれない。
ただ一人、信頼できるのは有能な内科医里見教授しかいなかったのです。
何とも皮肉な話です。

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グレース
グレース

著作は文庫版の全5巻が教授選と裁判編の両方が読めます。
映像版は時代によって違いがありますが、一番原作に近いのは昭和の田宮二郎版になります。

それでも、一度は原作で読んでいただくと当時の時代背景や考え方の違いが明確になので良いと思います。

映画 製作年 ネット局・製作 主演
  1966年 大映製作 田宮二郎
テレビドラマ      
  1967年 NET・東映テレビプロ制作 佐藤慶
  1978年 田宮企画・フジプロダクション制作 田宮二郎
  1990年 テレビ朝日・大野木オフィス制作 村上弘明
  2003年 フジテレビ・共同テレビ制作 唐沢寿明
  2007年 韓国MBC・KIMJONGHAK PRODUCTION制作 キム・ミョンミン
  2019年 テレビ朝日制作 岡田准一