後宮小説~酒見賢一
「後宮小説」というタイトルの小説がありました。
作家・酒見賢一さんのデビュー作でアニメ化もされました。
アニメのタイトルはちょっと違って「雲のように風のように」です。
アニメは批判もあった?
このアニメが放送されたのは1990年の事です。
スタジオぴえろの作品ですが、ファンタジーで何となくジブリっぽいので批判も大いにあったと覚えがあります。
それもそのはず、本当にスタジオジブリの作品に参加したスタッフも多かったからです。
でも、子供にはそういう大人の事情は分かりませんからね。
ジブリの真似だとか言われていたのを覚えています。
テレビ地上波の特別番組で1本完結でした。
時間にして1時間半でした。
アニメは当時のアイドル歌手が主役を担当したのでとにかく何を言っているのかが聞きづらい。
当時は字幕もないし、滑舌の良いプロ声優さんでアニメを見慣れている世代としては結構つらいアニメだったと思います。
だからこそ、私の場合は何回も観るためにビデオレンタルしてダビングして何回も観ましたね。
おかげで自分自身の記憶にも結構残っていて当時の事は良く覚えています。
ざっとあらすじ
話は淡々としていて皇帝が死んで次の皇帝(この時点では皇太子)のための宮女募集に全国から年頃の女の子が集められます。
*宮女とは皇帝に使える女性、つまりお妃選びみたいな感じです。
そして、宮女としての教育を受け始めます。
子供の作り方(房術)なんかが匂わされる部分もあるけれど、アニメではそこまでの言及はありませんでした。
皇帝の地位を狙う反乱に遭い、宮女たちが反撃!
宮女たちの抵抗むなしく皇帝は自決する事になってしまう。
反乱軍のリーダー格の一人と銀河(主人公で皇帝の正妃となった女の子)が結託してこれ以上の争いをやめる事に成功し、それぞれの宮女たちは故郷に帰る事になります。
その後、政権の交代があったりするものの、最終的に皇帝の座に就いたのは銀河の息子。
実は馬小屋の中で皇帝と一度だけの逢瀬で授かった子供です。
原作を読まないと意味が分からなかった。
原作では解説もあったのでこの作品の意味がよりよく分かりました。
そもそも「素乾国」と言う国の名前も「素」という字を使っている事で「かりそめ」や「本当の事ではない」という意味が加わるそうです。
そういう訳で、「素乾国」と言う事で「な~んちゃって、架空の話だよ~~~」と言う事が始まると言う事なのです。
ですが、終始、中国風でありました。
広い国ですから、宮女と言っても色んな考えの人たちが集まります。
そもそも皇帝の妃候補の女の子達です。
「女大学」という所に入れられるものの、本来の目的は「房術」です。
つまり、皇帝の子供を作るための教育を施されている女性たちと言う事です。
ここでも、それぞれの考え方があらわになります。
登場する女の子たち
とにかく自分の家柄や美貌を鼻にかけていた世沙明(セシャーミン)は妃に選ばれるのは自分に違いないと信じて疑いませんが、何となく憎めないタイプの女の子です。
エキゾチックな江葉(コウヨウ)は頭脳明晰で何を考えているか分からないタイプです。
煙草は吸うし、実は故郷では既に男性経験がありました。
その経験も実は一人にあらずと言った描写があります。
一度、関係した男が次に来ることはなかったとか、なかなか強烈な印象がありました。
(この辺はアニメでは言及なし)
そんなこんなで食べられるなら宮女も悪くないと思って応募したとかなかなか淡泊な女の子でした。
玉遥樹(タミューン)実は皇太子(コリューン)の実の姉でした。
実の姉だから、妃に選ばれる事はなかったのですが、そもそも潜入していたという感じですね。
一人だけ大人びていてタミューンだけは「女性」という感じでしたね。
原作では、実は弟に好意を抱いているような記述もあって、主人公の銀河(銀正妃)とは早くから仲が良かった一方で心の中では嫉妬しているような記述もありました。
(表面的にイジメるとか、そんなのはなし)
登場する女性陣もこんな感じでそれぞれです。
面白かったのは主人公の銀河(銀正妃)です。
一度の契りで子供が出来たその子供がこの国の皇帝になっていくという話で結ばれるのですが、その時に馬小屋だったから臭かったというのが妙に笑わせてくれる終わり方でした。
主人公の銀河が皇帝の一度限りの契りを結ぶときに初潮があった事を告げるというセリフがあります。
子供を産む準備が出来たと言う事です。
そういうことを鑑みれば、宮女として募集に応じた時点で今の小学生くらいだったかなというのが正直な印象です。
英語表記?カタカナの固有名詞?
この作品の面白い所は「漢字」で書かれているはずの固有名詞に「カタカナ」の振り仮名が書かれている事です。
皇太子だった双槐樹は「コリューン」
コリューンの姉、玉遥樹は「タミューン」
お妃候補の世沙明は「セシャーミン」
敵となり、反乱軍のリーダーは幻影達で「イリューダ」
こういう言い方も中国の言い方では結構ある事でした。
ただし、身分の高い人の趣向です。
自分の名前以外にもこういった英語風の名前を付けると言う事があるのです。
ここで笑い話として語られるのは反乱軍のリーダーの幻影達(げんえいたつ)が自分を「イリューダ」と自分自身で名乗り始める事です。
旧友にも笑われるほどです。
勿論、こういう風に英語風の名前を付ける事は身分の高い人に多かった事ですから、憧れていたと言う事なのでしょうね。
ちなみに「イリューダ」というのは「幻」が「イリュージョン」と言う事から来ていると思われます。
最後に
覚えているだけでサッと書いてきましたが、これが原作者の酒見賢一氏のデビュー作品でファンタジーノベル大賞の第1回作品でもあります。
ファンタジー好きな人達の中では金字塔的な賞となりましたが、この作品が第一歩です。
酒見賢一さんはこの度、天国にお住まいをうつされました。
この作品のほかに「墨攻」もこの方が書かれています。
中国への見識が非常に高い事がデビュー作から評価されていましたが、ほとんどが中国に起因する物語でした。
この手法が後に「十二国記」や「薬屋のひとりごと」に踏襲されているんじゃないかなとは私の勝手な想像ですが…。
原作も読めるし、アニメもBlu-rayやDVDで視聴可能です。
是非、ご覧いただければと思います。