感想を書くにあたり、真犯人と真相に触れなければ話が進まないので、未読、未視聴の方はそのままバックしていただければと思います。
読後、視聴後、ご再訪いただければ幸いに思います。
名探偵ポワロ
テレビ放送されたタイトルは「ポワロ」原作は「ポアロ」となります。
「ワ」と「ア」の違いで混在します。
テレビドラマはとても美しいテレビドラマのようでした。
綺麗な女優さんばかりでした。
あのネバーエンディングストーリーで有名な「幼心の君」が大きくなって登場です。
私は最初、アダムスファミリーの女の子かと思いましたが、目が素晴らしく大きな可愛らしい女優さんです。
ジュリー・コックスです。
キャロライン役の女優さんも美人です。
アメリカの「デスパレードな妻たち」のブリー役のマーシア・クロスやイギリスの「ダウントン・アビー」のメアリー・クローリー役のミシェル・ドッカリーにも印象が良く似ています。
レイチェル・スターリングというイギリスの名家の女優さんです。
そして、最初に出て来る娘役の美人女優は義足のパラリンピック選手としてエイミー・マリンズです。
美貌のアスリートです。
プロ俳優ではないので演技に難ありという評も見かけますが、立っているだけで美しいので素敵でした。
ストーリーの進行とともに「サティ」の楽曲が流れます。
これが非常に良かったです。
ドラマの俳優一覧です。
原作と表記が違ってきますが、今回は本の感想なので原作に準拠します。
また、娘の「カーラ・ルマルション」はテレビでは「ルーシー・クレイル」が本名。
原作では母親と同姓同名の「キャロライン・クレイル」が本名です。
欧米では親の名前を踏襲することもあるのでこういうことが起こります。
多分、混乱を避けるためにドラマでは設定を変えたのではないでしょうか?
ポワロ (原作名:ポアロ) |
デヴィッド・スーシェ | ご存じ灰色の脳細胞 |
カロリン・クレイル |
レイチェル・スターリング | |
アミアス・クレイル (エイミアス・クレイル) |
エイダン・ギレン | |
フィリップ・ブレイク | トビー・スティーブンス | |
メレディス・ブレイク | マーク・ウォーレン | |
ルーシー・クレイル (カーラ・ルマルション) |
エイミー・マリンズ | 義足のパラリンピックの選手 |
エルサ・グリヤー | ジュリー・コックス | ネバーエンディングストーリーの幼心の君 |
アンジェラ・ウォレン | ソフィー・ウィンクルマン | フレデリック・ウィンザー卿夫人 |
ウィリアムズ | ジェマ・ジョーンズ | ブリジット・ジョーンズの日記のママ役 |
五匹の子豚とは?
五匹の子豚とは5人の容疑者の事です。
事件はある画家が「木陰の少女」という絵画を描くにあたりモデルの少女を家に呼び込み、浮気。
妻が怒って夫である画家を殺した結果、獄死(テレビでは刑死)しています。
物語が始まった時点で殺された夫と殺したとされる妻は亡くなっています。
この真相を知りたいと言う事で夫婦の娘がポワロに依頼します。
娘は結婚する年齢になるにあたり自分の親の事を知り、真相を知りたかったのです。
もう既に14年以上前の話です。
(原作では16年前)
殆ど証拠はありません。
ポワロの聞き取り調査で真相は分かるのです。
ポワロ自身が現場の事件の解決をするのではなくて過去の判決が下された後の事件に挑む珍しいパターンです。
ポワロの作者クリスティは、ポワロ以外にもう一人の名探偵「安楽椅子探偵」の「ミス・マープル」を生み出しています。
どちらかというと「状況証拠」と「伝聞」だけで解決していくスタイルは「ミス・マープル」のようだと感じましたが、クリスティの真骨頂だと思うとこれがすぐれた作品の一つだと言えるのではないかと思います。
5匹の子豚
5人の容疑者はそれぞれに色んな心理を抱えていました。
それぞれに自分以外の人を悪く言います。
前提として「自分以外」の誰かが犯人という考えです。
事件の発端となった人物が死んだ理由を「自殺」という人間は犯人とされたキャロラインの妹・アンジェラ一人でした。
「他殺」である。しかし、犯人は自分以外。
ポワロは一人一人に話を聞いていきます。
この結果、誰も真実にたどり着いていない事が分かります。
ただ一人、真犯人以外は…。
おまけに真犯人が真実を言うはずもありません。
木陰の少女のモデルが犯人。
真犯人はまるで被害者を装っていた「木陰の少女」のモデルのエルサでした。
当時18歳だった彼女は自分の美貌に溺れ、何でも自分の思い通りになってきた人生でした。
画家の心も奪い取ったと信じて疑わなかったのですが、実はこの夫婦の愛は盤石で浮気の一つや二つでどうにもならないほどの強い愛で結ばれていたのです。
そうなると、18歳の美貌のエルサのプライドはズタズタです。
彼女の動機は愛ではなくてエゴだったのです。
こんなにも多くの人を巻き込んでイギリス中の注目を連日連夜さらった事件なのに真犯人は嘘をつき続け、貴族になるために愛のない結婚をし、今もマスコミの注目の人物です。
妻が罪をかぶった理由
夫殺しの汚名を着せられたまま最後まで自分の無実を告げる事はなかった妻・キャロライン。
真犯人は自分の妹・アンジェラだと思っていたからです。
幼い頃、自分の所為で妹を傷つけてしまった償いをこれで出来ると罪を受け入れたのです。
また、愛する夫の元へ旅立てる幸せを感じていたのです。
とことん救われない結果
真相を語った後にポワロは罪をかぶって死んでいった妻キャロラインの「死後特赦」(原作では死後恩赦)を申し出る事にするとします。
テレビではこの真相を知った娘が真犯人のエルサを撃とうとします。
ですが、ポワロが止めるのです。
原作にはそんなシーンすらありません。
原作で最初に依頼してきた娘は自分の結婚と未来の為に真実が欲しかっただけで両親への愛情があったわけでもなく、ただ、見つめるだけです。
モデルの仕事が終わったら、「さっさと出て行かせる」と言った夫に「それでは可哀想だ」と言った妻。
それを聞いていたエルサは自分がこの妻に勝てなかったうえに憐れまれた事で犯行を下したのです。
そこには「愛情」はありません。
ただのエゴであると私は考えます。
つくづく報われません。
テレビドラマも辛い結果でしたが、原作の方が更に報われない話であると思います。
心理描写にすぐれている原作
クリスティの真骨頂としてその心理描写です。
細かく書かれていてそれは犯人や容疑者だけではなくてポワロ自身もである事が原作では明確に書かれています。
いつもニコニコして優しげなポワロですが、ちょっと嫌味を言われたりマウントを取られたりしたときの嫌な思いをしたことをクリスティはつまびらかに表現しています。
ドラマ作中ではポワロ役のディビット・スーシェがその時々の表情を巧みに表現しています。
原作を読むとその辺もよく分かってより深くポワロの世界を堪能できると思います。
最後まで「木陰の少女」の絵はテレビ画面にうつる事はありませんでした。
(わずかに書いている最中の映りこんだ形で観えるものの全容は分からず)
これは読者(視聴者)の想像に任せると言った趣向なのでしょうか?
決定的になったセリフ
Send her packing→彼女を解雇する
She to her packing→彼女の荷造りをする
英語で発音してもらうとよく分かるのですが、聞き間違えてしまうとまるで違う意味になるのです。
この時の「彼女」の事も「彼女を解雇する」の時の彼女は愛人エルサの事で「彼女の荷造りをする」と聞き間違えた「彼女」は妻、キャロラインの妹アンジェラの事です。
こんな行き違えも原作にはありますので合わせて読まれると意味がより深く理解できると思います。
マニア受けする作品
あとがきの書評を読んでいるとマニア受けする作品だそうです。
納得の一言で、ポワロシリーズの中で私自身はこの作品を今回初めて知りました。
でも、非常に良かったです。
うっかり原作を買ってきてその日に読んでしまうほど面白かったです。
前述しました通り、各人の心理描写は真犯人が分かった後でも堪能できますので全容を知ったうえでぜひご一読いただきたいと思います。
ちょっと、通好みのポワロと言う事でしょうか?