緋色の研究
シャーロック・ホームズシリーズの「緋色の研究」はコナン・ドイルによるホームズシリーズ最初の作品です。
でも、この作品が単独で映像化されたり、漫画化される事はあまり記憶にないように思います。
それもそのはず、この作品はホームズとワトソンの最初の出会いとホームズの推理能力の高さが紹介されるお話なのです。
今で言うと「ホームズのスペック」が紹介されている作品なのです。
でも、考えてみるとすごいです。
その紹介の本がまるまる1冊なんですから!
ホームズシリーズの本編では彼の推理能力の高さで次々と難事件を解決していきます。
ですが、その推理能力は奇抜なモノでも天性のものでもなくて、ホームズ自身の多岐に渡る相当量の知識や情報収集能力あっての事です。
この最初の「緋色の研究」を読み飛ばしてホームズシリーズを読み始めるとホームズが魔法使いや奇抜なトリックを持っているように思う人もいるかもしれません。
ホームズの事件解決に結びつけるその能力の高さは決して魔法でも奇術でもないのです。
但し、こういう高い能力を付ける事は常人には簡単な事ではありません。
これを飄々とやってしまう当たりがホームズ最大の魅力の一つです。
緋色って何?
緋色って何でしょう?
これは色の名前です。
少し古い言い方で若い方々にはなじみのない色かもしれませんね。
他の日本語に例えると「赤」や「えんじ」になります。
この緋色が何を示しているかと殺人事件で「血の色」の事ではないかというのが一般的です。
シャーロッキアンには基本の作品
ホームズシリーズのファンの事を「ホームズ・フリーク」とか「シャーロッキアン」という言い方をしますが、私はシャーロッキアンという言い方が好きです。
シャーロッキアンは日本にも多く、ホームズファンならこの作品を知らずに他の作品を読むというのは何とも勿体ない気がします。
日本でも有名なシャーロッキアンの一人、青山剛昌氏は自身の作品「名探偵コナン」の中にもホームズにちなんだ話がたくさんあります。
面白いのは死んでいたはずのFBIの赤井秀一が復活したシリーズを「緋色シリーズ」と言われますが、もちろんこの作品をオマージュしたシリーズです。
ただし、オマージュされているのは「緋色」というタイトルだけで内容は全く違うものになっています。
シャーロッキアンであれば、「緋色の研究」と「緋色が赤色」である事で赤井秀一の苗字の「赤井」がリンクされている事を何となく想像してしまうものです。
「緋色の研究」の原題は?
最初に発表された時、 「A Study in Scarlet」というタイトルでした。
日本で翻訳されて定着したタイトルが「緋色の研究」というのです。
今は「緋色の習作」というタイトルで発行されている翻訳もありますが、「緋色の研究」という方が馴染みがあります。
「緋色の研究」というタイトルを定着させたのは延原謙による翻訳が最初です。
また、ホームズ時代の英語を翻訳したものとして時代背景やホームズの少し高圧的な物言いが再現されている翻訳として延原謙訳が秀逸だと思います。
ホームズは自分の推理には自信がありますがから「断定的」で「高圧的」な部分があります。
日本語風に書くと「~~~したまえ!」などです。
こういう翻訳が今となっては訂正されているケースが多いように思いますが、当時のイギリスのインテリジェンスの話し方としては、この方がしっくりきます。
ホームズの時代は日本ではいつ?
ホームズは100年前くらいのイギリスが舞台です。
これは日本ではいつくらいかというと大正時代から昭和の初期です。
タクシーではなくて馬車で移動していた時代です。
やっと電話が普及したくらいで、通信手段は手紙の方が主流でした。
イギリスの方が日本よりも進んだ文化圏ではありましたが、今から考えるとそんなに時代差がないように感じるのは私だけではないと思います。
実は後からのイメージ
ホームズのイメージはどうでしょう?
鹿撃ち帽をかぶって、コートを着てパイプをくわえているという印象ではないでしょうか?
これは実は原作者のコナン・ドイルの作中には出てこないのです。
当時の挿絵と後に公開された映画の影響でこのイメージが定着してしまったのです。
でも、シャーロッキアンが納得してしまう程、このイメージは作中のホームズにぴったりだったのでしょうね。
今となってはこのイメージの方が先行していて実は後付けだと言う事を知らない人の方が多いかもしれません。
そういうわけで「ホームズのスペック」が書かれた「緋色の研究」是非お読みください。
おまけネタバレ(詳細はクリックしてね)
推しの名訳
シャーロック・ホームズ・シリーズは多くの著述や翻訳がたくさんあります。
どの翻訳を読めばいいか分からない方の為に私の「推し」の翻訳を推薦しておきます。
延原謙さんです。
ホームズの翻訳を今に至る完全な形で全訳した最初の方だと思われます。
実はそれまでも、何度か翻訳が試みられているのですが、ホームズやワトソンの名前があり得ない和名であったり、完全に翻訳されているものはありませんでした。
(ありえない和名。有名な所ではホームズが小室泰六。ワトソンが和田進一)
また、延原謙訳の長所はその時代背景の言葉としてホームズがいう若干高圧的な言い回しが再現されている所です。
(ホームズは超インテリ階級なので「~したまえ!」など上から目線の表現が散見しますが、イギリス的にはこう言った表現が正確に反映されることこそが作品の時代背景を明確に表していると思います)
時代を反映した翻訳と言えます
延原謙 新潮社文庫 全10冊
延原謙さんの翻訳の新潮社文庫は全10冊になります。
他のシリーズが全9冊なのに1冊多い全10冊なのは、最初の9冊の発売時点で漏れていた作品を最後の「シャーロックホームズの叡智」で全部入れ込んだからです。
そこで新潮社文庫は全10冊となりますが、全60作品を読むことが可能です。
また時代背景と翻訳がリンクしている事もあり、ホームズの時代に即した言い回しが楽しめます。
何度も版を重ね、改訂がされているので今も読むことが可能です。
新潮社文庫からはたまにスペシャルカバーで装丁の違う本も発売される事もあるので、それを購入するのも楽しみです。
長編4冊
短編集6冊
- ボヘミアの醜聞
- 赤髪組合
- 花婿失踪事件
- ボスコム谷の惨劇
- オレンジの種五つ
- 唇の捩れた男
- 青いガーネット
- まだらの紐
- 花嫁失踪事件
- 椈屋敷
- 白銀号事件
- 黄いろい顔
- 株式仲買店員
- グロリア・スコット号
- マスグレーヴ家の儀式
- 背の曲った男
- 入院患者
- ギリシャ語通訳
- 海軍条約文書事件
- 最後の事件
- 空家の冒険
- 踊る人形
- 美しき自転車乗り
- プライオリ学校
- 黒ピーター
- 犯人は二人
- 六つのナポレオン
- 金縁の鼻眼鏡
- アベ農園
- 第二の汚点
- 高名な依頼人
- 白面の兵士
- マザリンの宝石
- 三破風館
- サセックスの吸血鬼
- 三人ガリデブ
- ソア橋
- 這う男
- ライオンのたてがみ
- 覆面の下宿人
- ウィステリア荘
- ボール箱
- 赤い輪
- ブルース・パティントン設計書
- 瀕死の探偵
- フランシス・カーファクス姫の失踪
- 悪魔の足
- 最後の挨拶
- 技師の親指
- 緑柱石の宝冠
- ライゲートの大地主
- ノーウッドの建築士
- 三人の学生
- スリー・クォーターの失踪
- ショスコム荘
- 隠居絵具屋
深町眞理子 創元社文庫 全9冊
創元社文庫版は新訳として話題になった深町眞理子さんの訳です。
新訳らしい今風の筆致になっています。
装丁の絵はホームズが最初に紙面に載ったストランド誌の有名なイラストです。
こちらも全60作品読むことが可能です。
延原版と微妙にタイトルが違うのも面白いです。
ストランド版の出版順に翻訳されています。
長編4冊
短編集5冊
- 「ボヘミアの醜聞」
- 「赤毛組合」
- 「花婿の正体」
- 「ボスコム谷の惨劇」
- 「五つのオレンジの種」
- 「くちびるのねじれた男」
- 「青い柘榴石」
- 「まだらの紐」
- 「技師の親指」
- 「独身の貴族」
- 「緑柱石の宝冠」
- 「ぶなの木屋敷の怪」*「ぶな」は木へんに無
- 「〈シルヴァー・ブレーズ〉号の失踪」
- 「黄色い顔」
- 「株式仲買店員」
- 「〈グロリア・スコット〉号の悲劇」
- 「マズグレーヴ家の儀式書」
- 「ライゲートの大地主」
- 「背の曲がった男」
- 「寄留患者」
- 「ギリシア語通訳」
- 「海軍条約事件」
- 「最後の事件」
- 「空屋(くうおく)の冒険」
- 「ノーウッドの建築業者」
- 「踊る人形」
- 「ひとりきりの自転車乗り」
- 「プライアリー・スクール」
- 「ブラック・ピーター」
- 「恐喝王ミルヴァートン」
- 「六つのナポレオン像」
- 「三人の学生」
- 「金縁の鼻眼鏡」
- 「スリークォーターの失踪」
- 「アビー荘園」
- 「第二の血痕」
- 「〈ウィステリア荘〉」
- 「ボール箱」
- 「赤い輪」
- 「ブルース=パーティントン設計書」
- 「瀕死の探偵」
- 「レイディー・フランシス・カーファクスの失踪」
- 「悪魔の足」
- 「シャーロック・ホームズ最後の挨拶 ──ホームズ物語の終章」
- 「高名の依頼人」
- 「白面の兵士」
- 「マザリンの宝石」
- 「〈三破風館〉」
- 「サセックスの吸血鬼」
- 「ガリデブが三人」
- 「ソア橋の怪事件」
- 「這う男」
- 「ライオンのたてがみ」
- 「覆面の下宿人」
- 「〈ショスコム・オールド・プレース〉」
- 「隠退した絵の具屋」
映像作品のホームズ
グラナダ版 シャーロック・ホームズの冒険(1984年~1994年)
全41話。
最もホームズのイメージに近いと言われたジェレミー・ブレットによるものです。
第1シリーズ/The Adventures of Sherlock Holmes |
第1話 ボヘミアの醜聞/A Scandal In Bohemia |
第2話 踊る人形/The Dancing Men |
第3話 海軍条約事件/The Naval Treaty |
第4話 美しき自転車乗り/The Solitary Cyclist |
第5話 まがった男/The Crooked Man |
第6話 まだらの紐/The Speckled Band |
第7話 青い紅玉/The Blue Carbuncle |
第2シリーズ/The Adventures of Sherlock Holmes |
第8話 ぶなの木屋敷の怪/The Copper Beeches |
第9話 ギリシャ語通訳/The Greek Interpreter |
第10話 ノーウッドの建築業者/The Norwood Builder |
第11話 入院患者/The Resident Patient |
第12話 赤髪連盟/The Red-Headed League |
第13話 最後の事件/The Final Problem |
第3シリーズ/The Return of Sherlock Holmes |
第14話 空き家の怪事件/The Empty House |
第15話 プライオリ・スクール/The Priory School |
第16話 第二の血痕/The Second Stain |
第17話 マスグレーブ家の儀式書/The Musgrave Ritual |
第18話 修道院屋敷/The Abbey Grange |
第19話 もう一つの顔/The Man with the Twisted Lip |
第20話 六つのナポレオン/The Six Napoleons |
第4シリーズ/The Return of Sherlock Holmes |
第21話 四人の署名/The Sign of Four(2時間スペシャル) |
第22(23)話 悪魔の足/The Devil’s Foot |
第23(22)話 銀星号事件/Silver Blaze |
第24話 ウィステリア荘/Wisteria Lodge |
第25話 ブルース・パーティントン設計書/The Bruce-Partington Plans |
第26話 バスカビル家の犬/The Hound of the Baskervilles(2時間スペシャル) |
第5シリーズ/The Casebook of Sherlock Holmes |
第27話 レディ・フランシスの失踪/The Disappearance of Lady Frances Carfax |
第28(29)話 ソア橋のなぞ/The Problem of Thor Bridge |
第29(30)話 ショスコム荘/Shoscombe Old Place |
第30(28)話 ボスコム渓谷の惨劇/The Boscombe Valley Mystery |
第31話 高名の依頼人/The Illustrious Client |
第32話 這う人/The Creeping Man |
2時間スペシャルシリーズ |
第33(34)話 犯人は二人/The Master Blackmailer |
第34(33)話 サセックスの吸血鬼/The Last Vampyre |
第35話 未婚の貴族/The Eligible Bachelor |
原作「独身の貴族(別題:『花嫁失踪事件』)」を元にした一作。 |
第6シリーズ/The Memoirs of Sherlock Holmes |
第36話 三破風館/The Three Gables |
第37話 瀕死の探偵/The Dying Detective |
第38(40)話 金縁の鼻眼鏡/The Golden Pince-Nez |
第39(38)話 赤い輪/The Red Circle |
第40(41)話 マザランの宝石/The Mazarin Stone (with The Three Garridebs) |
第41(39)話 ボール箱/The Cardboard Box |
BBC版 シャーロック(2010年~2017年)
全4シーズン+特別編(全13話)
ホームズのネタを現代版に書き直した作品。
制作者側がとことんこだわり抜いている所が随所に観られ、13話の中から元ネタを探すのが面白かったシリーズです。
ベネディクト・カンバーバッチ版のホームズは斬新な感じがしましたが、原作の設定を踏襲していたのです。
高身長でサイコパスである事が、おおむね好評でした。
シャーロック(英国配信日) | |
1 | ピンク色の研究(2010/07/25) |
・緋色の研究 | |
2 | 死を呼ぶ暗号(2010/08/01) |
・恐怖の谷 | |
・踊る人形 | |
3 | 大いなるゲーム(2010/08/08) |
・ブルースパーティントン設計書 | |
4 | ベルグレービアの醜聞(2012/01/01) |
・ボヘミアの醜聞 | |
5 | バスカヴィルの犬(2018/01/08) |
・バスカヴィル家の犬 | |
・悪魔の足 | |
6 | ライヘンバッハ・ヒーロー(2012/01/15) |
・最後の事件 | |
・犯人は二人 | |
7 | 空の霊柩車(2014/01/01) |
・空き家の冒険 | |
8 | 三の兆候(2014/01/12) |
・四つの署名 | |
9 | 最後の誓い(2014/01/12) |
・最後の挨拶 | |
・犯人は二人 | |
・唇のねじれた男 | |
10 | 忌まわしき花嫁(2016/01/01) |
・マスグレーヴ家の儀式 | |
11 | 六つのサッチャー(2017/01/01) |
・六つのナポレオン | |
12 | 臥せる探偵(201/01/18) |
・瀕死の探偵 | |
13 | 最後の問題(2017/01/15) |
・マスグレーヴ家の儀式 | |
・グロリア・スコット号 | |
・3人ガリデブ |
元ネタ探しがとても楽しかったシリーズです
名探偵ホームズ(1984年)
全26話。
日本のアニメでホームズが「犬」であるという奇抜な設定だったのですが、脚本が常に面白くて高視聴率だったシリーズです。
原作のホームズとはかなりかけ離れていた感じがするのですが、必ず元ネタがありました。
今も根強いファンが多いはその辺に理由がありそうです。
実はジブリの宮崎駿監督が手掛けた作品が6作品あります。
宮崎駿監督作品はテレビ放送もされましたが、劇場公開もされました。
宮崎駿 関連作品
第3話 小さなマーサの大事件!?
第4話 ミセス・ハドソン人質事件
第5話 青い紅玉(ルビー)
第9話 海底の財宝
第10話 ドーバー海峡の大空中戦!
第11話 ねらわれた巨大貯金箱
ジブリの宮崎駿監督による作品
ホームズ原作とは大きな改変がありますが、面白かったです。