100分de名著「放浪記」林芙美子

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2023年7月は「放浪記」です

第1回 「悪」の魅力

林芙美子“放浪記” (1)「悪」の魅力 - 100分de名著
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林芙美子“放浪記” (1)「悪」の魅力
初回放送日: 2023年7月3日

数奇な運命によって幼少期から放浪の旅を余儀なくされる林芙美子。ある時は安月給で酷使され、ある時は男女関係の泥沼にはまり続ける女友達の姿に直面する。

相次ぐ不条理に対したとき、林芙美子の中に発動するのは「悪」。「富士山よ!/お前に頭を下げない女がここにひとり立っている」という詩に代表されるように痛快なまでにあっけらかんとした悪罵、怒り、憤り。彼女の言葉は、暗い世相を生き抜く庶民たちの声にならない心の叫びと共鳴することで読者たちをわしづかみしたのである。第一回は、林芙美子の人となりや執筆背景に触れながら、「放浪記」に描かれた「悪の魅力」に迫る。

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/Q2NV58966G/

指南役は柚木麻子先生です。
結構著作の多い美人の先生ですよ。

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柚木先生。赤いドレスで登場です。

林芙美子のブラックな部分を読み解いていくと言う指南役の柚木麻子さん。

原作は今っぽい話。
SNSに通じる事もあるとか?

舞台版と原作は別物と考える

舞台版の森光子さんのイメージがとても強いのですが、これは「森光子さんのフェス」だと言い切る柚木さん。
菊田一夫氏の脚本による舞台版の「放浪記」は2000回を超える上演回数となりました。
森光子さんが登場するだけでその場は盛り上がり、この芙美子なら嫌われる事もなさそうですが、原作の芙美子はとても嫌われていたと言うのです。

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初めて「放浪記」を読んだのは子供の時でしたが、あんまり好きになれない暗い話だと思ったのが最初の感想です。
森光子さんの舞台を初めて見た時に「こんなに明るい話だっけ?」と思った違和感は間違っていなかったのです。

放浪記のスペック

林芙美子は(1903年~1951年)

放浪記のスペック

大正12年から書き始めた「歌日記」を元にした三部構成の日記小説(デビュー作)
昭和5年(1930年)7月「放浪記」刊行(第一部)ベストセラーに
昭和5年(1930年)11月「続放浪記」刊行(第二部)
昭和8年(1933年)「放浪記」合本刊行
昭和22年(1947年)「放浪記」第三部連載開始

日記の良い所は好きな所から読める。
日記の構成は「芙美子の嘘」も含まれるために第二部で別れたはずの男が第三部も出てきたりする。
こうやって辻褄が合わない事で読むのを諦めた人も多いが柚木さんはむしろマルチメタバースだと言います。

何度も改稿を重ねた放浪記は最初の方が良かった表現が良いと言う事が多々あったようです。
魔改造と言われるほどの改稿

例えば、改稿前「私は雑種でチャボである」
改稿後まるごと削除されています。

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「もったいな!」という伊集院さんの反応がありましたがまさにそのものだと思います。若い頃に書いたその時の勢いで書いたものの方がいいのに、後々に自分自身の筆力が上がってきて拙く感じて改稿してしまうんですね。

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林芙美子嫌われた理由

芙美子が嫌われた理由
芙美子が嫌われた理由を柚木さんがクイズ形式にしてくれました。
答えはどれでしょう?

Q後進の女性作家たちから嫌われた理由は?

1・権力者に取り入って更新を潰した
2・女性作家が書くものだけを鋭く批判した
3・他の作家に仕事が回らないよう執筆依頼をどんどん引き受けた

正解は「3番の他の作家に仕事が回らないよう執筆依頼をどんどん引き受けた」だそうです。

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私は全部だと思いました。
違いましたね。

伊集院さんの感想は「そういう事なら悪くない」柚木さんも「巨悪ではない」と言います。
今の時代なら、そこまで「ワル」でもないと言うのです。
その時代背景の倫理や体制が「芙美子を悪」にしたのでは?

今の目で見ると「ネチネチして嫌な人ではない」というのです。

生活の為に仕事をしていくのですが、子守は子供がなついていてもその子供の悪口を書き連ねています。その子守もクビになり、お金欲しさに給金の良い出来もしない仕事をしてまた解雇。富士山にでさえ、ディスっていく芙美子。
出版社に持ち込み、ほとんど採用される事なく、たまに童話が採用される程度。
それでもお金が入ればウキウキする芙美子は現実的で面白くもあります。

貧困女性が性搾取をされる事についても芙美子は真剣に怒ります。
また、こういう事で「怒る」と言う事は今では当然の事ですが、当時はそういう事を「口にするのは良くない」という風潮があったのでしょうか?

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文壇からは嫌われた一方で一般の読者、特に女性からは「ここで怒って良いんだ」と思ったのです。
女性が声を上げる事がなかなか出来なかった時代の話なので、芙美子の考えは非常に前衛的だったのかなと感じました。

貧困から

世間が思う「こうあってほしい貧困」ではなくて、現実的な貧困女性なのです。
多くの人は貧困と言っても「応援したいような貧困」であってほしいと思いますが、貧困はそんな綺麗なものではない。
人がいないうちに味噌汁を盗んで飲むくらいの事があるのです。

ズルいとか「悪」である事は芙美子にとって生きるための道具だと言って第1回は閉められます。

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柚木さんが「黒歴史」とか「SNS」と言う今風の言葉も絡めて説明されていたのがとても面白かったです。
こんなお話の仕方をされるんだなと違う方面でも楽しませてもらった第1回でした。

ワルは生き抜くための道具ツール

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第2回 お人好しの嫌われ者

林芙美子“放浪記” (2)お人好しの嫌われ者 - 100分de名著
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林芙美子“放浪記” (2)お人好しの嫌われ者
初回放送日: 2023年7月10日

「放浪記」には、女たちを食いものにする情けない男たちが数多く登場。芙美子は、舌鋒鋭く彼らの行状を暴き立てる。そんな中で、支えになるのは女友達との友情と絆だ。

持ち込まれた原稿を自分の作品として発表する詐欺師的な編集者、愛人を作りながらも嘘をつき金を貢がせる新劇俳優らとんでもない男たち。そんな苦境の中で、女友達と、ある時は励ましの言葉をかけ合い、ある時は生活を共にし、厳しい状況を乗り越えていく。第二回は、「放浪記」を彩る女性群像、男性群像にフォーカスし、その中で浮かび上がってくる「7お人好しで嫌われ者」という二面性をもつ林芙美子の魅力を浮き彫りにする。

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/WP2NN3YZMZ/

捨てられた男と小さい男

尾道から男を追って上京してきたはずの男に捨てられる芙美子。
実家に乗り込むもアメリカ帰りの兄夫婦が反対していると男の両親に言われる。
当の本人は後ろでおどおどするも何もしない。
芙美子は持ってきた菓子折りを渡して去るがその菓子折りを持って男は追いかけて来る。
菓子折りを突き返されるわけだが、男はそれすら親に言われたからでどこまでも人として小さい。
芙美子はそれを海に捨てるように男に言うがそれすらも男は出来ない。

その後、東京に帰った芙美子の元に10円が送られてくる。
バカにされたと一瞬憤るものの、これで借金を返そうと思うチャッカリした部分も芙美子にはあったのです。

そもそも10円を貸してくれた「松田さん」は良い人であったが芙美子は好きになれずむしろ『良い人』であったにもかかわらず付き合う事もなく「小さい」男だから気にいらないとディスっている。
この「小さい」と言うのは外見的なところ、内面的なところ、両方。

松田さんはいわゆる安全パイであるが、それに転ばない芙美子。
この時代は画期的だったのでは?

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嫌な男、嫌な事をされたら「嫌」と言えた芙美子

ある編集者に2時間待たされた上に「アンデルセンでも読みたまえ」と言われたときに「電車にはねられて死なないものかと想う」とその人の事を書いているものがある。
またこの編集者は芙美子の書いた童話を自分のモノとして掲載。
後年、大作家となった芙美子は自分の豪邸に編集者に序列をつけて憂さを晴らしたと言います。

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ブラックな芙美子がここでも出ます。
ちゃんと仕返しをします。

株の会社に事務員として雇われた時、重役の相良に抱きつかれキスしようとされ、両手に抱えられた時に抵抗。
その後、水で洗い流すのです。
嫌悪感をはっきり示しています。

性暴力や性暴行をヘタに正当化しようとする風潮が観られていた時代です。
そこを「嫌なものは嫌」「明らかに嫌悪感」を示していると言うのがこの時代では前衛的だったと言うのです。
また、この感覚を当時の若い女性が持つと言う事で「嫌と思って良いんだ」という潮流に至ったのかもしれません。

女給の女の子たち

カフェーの女給と言ったら今で言うホステスさんです。
色んな事情な女性たちがそこで働いています。
その複雑な事情を持った女性とすぐに仲良くなってとても親切な芙美子。
男性に対するあからさまな嫌悪感とは裏腹に女性とはすぐに仲良くなって面倒見も良いのです。

男に騙された女の子にもやさしく「色んな事に目が肥えるまでは用心はした方が良いと思ってよ。」と声を掛けます。
かなり的確なアドバイスをしているなと思います。

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これは今にもつながる事かなと感じました。

文壇が男社会である故に?

柚木先生のおばあちゃんは林芙美子の大ファンで、いつも話をしていたそうです。
それを聞いて図書館に借りに行った柚木先生のお母さんは蔵書に林芙美子がない事に驚きます。
これは、文壇が男社会であるが故に俗っぽい女性である芙美子を良しとしなかった背景があるのではと柚木先生の推測です。

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女性だから我慢するが当たり前だった時代。
それを「嫌悪感」を出していた事で文壇や男社会からは敬遠されたのかなとも感じました。
ですが、今となっては「嫌なものは嫌」「ダメなものはダメ」というのは普通の感覚です。
時代が芙美子に追いついたと改めて感じた回でした。

第3回 旅と食で生きる

林芙美子“放浪記” (3)旅と食で生き返る - 100分de名著
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林芙美子“放浪記” (3)旅と食で生き返る
初回放送日: 2023年7月17日

芙美子は「放浪記」の印税を得るとあらゆる束縛から抜け出すかのごとく世界へと旅立つ。とりわけパリの街で得た全き自由は彼女をとりこに。旅が彼女を生き返らせたのだ。

フランス料理に目もくれず自ら白米を炊き下駄で歩き回る芙美子のパリ生活は痛快だ。しがらみから離れた「旅」が彼女に生きる力を取り戻させる。「食」も芙美子の活力の源だ。「放浪記」続編でも、芙美子の食欲が爆発。おいしいものへのあくなき渇望は、彼女の文学を豊かに彩る。第三回は、「放浪記」に合わせて「下駄で歩いたパリ」等の作品を読み解くことで、林芙美子が「旅」と「食」から何を得たのかを見つめていく。

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/P33PQ687RL/
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旅と食が芙美子の真骨頂です。
これが外国へ行っても戦地でさえもブレません。

様々な所へ旅をした芙美子

今の食ブログなどにも通ずるくらい食の事を色々書いている芙美子。
それがすべて美味しそうだと伝わってきます。

一貫して「金が欲しい」芙美子。
それは貧困でお金がない時代を体験している芙美子は正直な感じがします。
旅先で鳩の死骸が川で流れるのを見た後で継続団子を食べて「うまい」という芙美子。

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Twitterならバズるタイプ

東京も放浪先

芙美子はいろんなところに行きますが、その場所にすぐに溶け込んで生活基盤を築いてしまいます。
逞しいです。
これを柚木先生は魔女の宅急便のキキのようだと評します。

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私にはない部分です。
羨ましいです。

作家の宇野浩二の元を訪れるも、「作家の部屋と云うものは何となく凄みがあって気味が悪い」と書いているものの街を歩いている女子学生の紫の袴の方がふくいくとているとハッキリ書いているのです。
街を歩いている方が楽しかったんですね。

文章を書くものとして、作家と会う事はとても良い事だと思います。
でも、それよりも日常の街歩きの方がウキウキしたんでしょうね。
こういうところが当時の女性たちにも受けたんだと思います。

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関東大震災も日常のように書く

関東大震災の事も書いていますが、芙美子は別居している両親の元へすたすたと歩いてそのときの日常のみを書いています。
この時に無料で大阪まで乗せてくれる張り紙を見つけ今度は大阪に向かいます。

作家なら、関東大震災に被災した事をいかに伝えようかとする一方で芙美子は日常をさらっと書いただけなのです。こういう作家を他に観ないと柚木先生は言います。

とにかく逞しい。

海外旅行記録

1930年(昭和5年)満州・中国
1931年(昭和6年)シベリア経由でヨーロッパ(主にパリ)
1932年(昭和7年)ロンドン(1か月滞在)パリ経由で帰国

シベリア経由でヨーロッパに行った時は三等列車。
十分な印税もあったはずなのにお付きの者もつけずに一人で放浪します(笑)
パリ滞在は「下駄で歩いた巴里」で今も読むことが出来ます。

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戦場へ行くのもノリノリ

戦場に向かった芙美子でしたが、最初は新聞特派員として、次はペン部隊の一員として参加します。
最前線にも赴き、第一報を出した事で成果を上げますが、先輩の男性作家たちからは嫌われます。

グレース  柚木先生によると芙美子は戦争に積極的にノリノリで参加した事は事実で、それに蓋をしてはいけないものの、この時代、女性が活躍するといえばこれくらいしかなかったと言われています。また、芙美子自身は戦後、一貫して「戦争反対」だったと言う事も言われています。ただし、「戦争翼賛」をしたことについて特に言明はしなかったそうです。

芙美子の戦争協力への一文

ああ私の頭には
プロレタリアもブルジョアもない
たった一握りの白い握り飯が食べたいのだ

芙美子の独白
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ペン部隊の男性作家たちはインテリでブルジョワジーであるけれど、戦争に行くのは庶民。
庶民の気持ちが分かるのは私だけという自負が芙美子に会ったのではというのが柚木論です。

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食べ物の表現がうまい

食レポもうまかった芙美子。
芙美子は決して美食家でも高級な食材ではありません。
質素なものが多いのが特徴ですが、とても美味しそうで幸せそうな感じが芙美子流です。

「身体性」

文学における「身体性」を感じるという柚木さん。
「身体性」というとエロスを感じる事も多いが、芙美子の場合は生活者として地に足が付いた身体からだがあるのです。

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第3回も元気な芙美子で終わりました。
この強烈なパワーは今も私たちに影響を与え続けるものです。

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第4回 「女流文学」を解き放つ

林芙美子“放浪記” (4)「女流文学」を解き放つ - 100分de名著
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林芙美子“放浪記” (4)「女流文学」を解き放つ
初回放送日: 2023年7月24日

戦後も意欲的に執筆活動を続ける林芙美子。「晩菊」「浮雲」は名文で名高い。その一方で、若手には負けないとばかりにエッセイ、食レポなどを引き受け続ける。

後半生、プライベートでも型破りで奔放な私生活を送る芙美子。誰もが一目を置く有名作家になっても「成熟」という言葉は芙美子には全く似合わなかった。体の不調をおして「食べ歩き」取材を二軒はしごした夜に心臓発作で亡くなる芙美子。彼女は最期の最期まで「わきまえない」生き方を貫いた。第四回は、「女流文学」という枠にはまることなく、自分を貫き通した痛快な作家人生を振り返る。

https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/9PYRPW632N/

芙美子と母の関係

芙美子のお母さんが結構強烈。
母(キク)は成功した娘が自慢でならなかったようですが、男運は決して良くありませんでした。
そんな母は芙美子が小さい頃に離婚、新しい夫と行商に出て貧しい暮らしをします。
この母の夫は芙美子にとっても若い父で、特に有能でもなかったのですが、芙美子の父としてそこそこ頑張った人です。(但し博打癖アリ)

でも、芙美子は母にだけ愛情があって、母の夫(自分にとっては育ての父)に対しては「さっさと別れたら」と言ってのけていました。
特に薬にも毒にもならない母の夫は芙美子の内縁の夫とよく似ていると柚木先生は指摘します。

結局は母と同じような人間を選んでしまったのでしょうね。
でも、芙美子と内縁の夫と一緒の写真は幸せそうです。
普通のショットです。

1926 大正15年 画学生の手塚緑敏と内縁関係
1930 昭和5年 「放浪記」刊行
1933 昭和8年 義父死去により母・キクを引き取る
1941 昭和16年 新宿・下落合の新居に移る(現・林芙美子記念館)
1944 昭和19年 養子・泰(たい)を引き取る
1951 昭和26年 心臓麻痺で死去(47歳)
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人気作家としての最期

芙美子は戦後、たくさんの作品を執筆、発表します。
でも、この多忙な毎日が芙美子の健康をむしばみます。

最後の仕事は食レポのウナギ屋さん。
その夜に亡くなります。

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最後の仕事が食レポだったことも芙美子らしいという柚木先生。
但し、こうやって本来は若手の仕事だったものを芙美子がやっていた事も文壇に嫌われた原因ではないかと柚木先生は推測します。

文壇では嫌われていた芙美子。
ですが、葬儀にはたくさんの人が訪れます。
ファンもたくさん参列しただろうことが残っている写真からも伺われます。
ですが、芙美子を嫌いな人も参列し不穏な空気であったとも伝えられます。

葬儀委員長は川端康成

ノーベル文学賞作家の川端康成が葬儀委員長をしています。
彼もまだ若かりし頃で、この時の写真も川端康成が若くてビックリしました。
また彼がこの時にスピーチした言葉で「故人を許してやって欲しい」という言葉が紹介されました。

花の命はみじかくて苦しきことのみ多かりき

「花の命はみじかくて苦しきことのみ多かりき」
いろんな場所で石碑になっていますね。
私も見かけた事があります。
意味は「花」を「女性」と捉える事が多いのですが、柚木先生は「花」を「芙美子自身」と解釈しています。
こうなると意味はちょっと違ってくるかと思いました。

芙美子自身が自分を「花」だと思っている事はちょっと芙美子の厚かましさや図々しさが出ているかと思います。

「多かりき」でなく「多かれど」

同じ時代に活躍した翻訳家の村岡花子さんに宛てた手紙の中にこの句を引用して書かれています。
その末尾は「多かりき」ではなく「多かれど」この微妙なニュアンスが絶妙ですね。
「多かりき」では「苦労ばっかりだなあ…。」という印象ですが、「多かれど」であると「苦労はあるけれど、こんな事やあんな事があるなあ」という印象に変わるだろうと思います。

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NHK朝ドラ「花子とアン」でも主役として描かれた村岡花子さんですが、芙美子と通じる事が多いと思いました。芙美子と花子は「きっと出会っていたら仲が良かっただろうな」と思っていたら本当にそうで驚きました。

放浪記は読み終わらなくていい。

放浪記は芙美子が何度も書き直しているというのです。
芙美子が生きていたらまた書き直しているだろうというのです。
だから、読み終わらなくていいというというのです。

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何度もリライトしていたと言う事でちょっと共感してしまいました。
そして、次の仕事を伊集院さんたちと約束してチャッカリ次の仕事もゲットしようとする柚木先生。
この辺も芙美子ファンらしくていいなあと思いました。

亡くなる4日前の肉声と字起し。

NHKのアーカイブで林芙美子の肉声が残っていました。
ものすごくしっかりした音声でこの4日後に亡くなるなんてことがあるのかと思うくらいです。
折角なので字起しをして、このシリーズを締めたいと思います。

私、作家生活をして25年近くになりますけれども
みんな何とも言わなくなりましたし、
非常に今は幸せだと思っております。
いい作品さえ書けたらという希望ばかりです。

NHKアーカイブより
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おまけ・私と放浪記の出会いと今回の感想

私が「放浪記」と出会ったのは小学生の頃です。
その時に、感じたのは「不幸な女性」の生涯と思いました。
ですから、今回の柚木先生のように終始明るい感じは良い意味で驚喜でした。

「放浪記」の解説は不幸な女性であるとか「女給」をする最下層の人物であるとか、愛人になる事を拒んで貧困だったとかそういう事が多かったのです。
今回の100分de名著の中で明るくて周りの事を考えずに突き進んでいた芙美子が文壇に嫌われて男社会から疎外されて、その継投でそういう解説に行きついたのかなと思いました。

また、「花の命はみじかくて苦しきことのみ多かりき」という句は有名で色んな所で石碑になっていたりします。
私が少女の頃、観たその石碑は「鹿児島県桜島」にありました。(現在もあります)
そこで、有志による「林芙美子」についての冊子が売っていました。
お土産代わりに両親に買ってもらったのです。
当時の価格で700円くらいだったと記憶しています。
私にとってはとても高価なものでした。
そこには林芙美子は鹿児島ゆかりの人である事や生涯を通して苦労した人である事や、「花の命は…」の惹句と同じく短命であったと言う事が書かれてありました。
ですから、私にとって「林芙美子は短命で苦労して辛い人生を送った女性」と言う事が頭に刷り込まれていました。

今回の番組で「芙美子は明るくて前向きでむしろ前衛的な人間」であったという事にかなりの驚きがありました。
これも、一つの作品でも解説やバイアス一つでこうも印象が変わるものだと思います。

折角持っているのでもう一度読み直してみようと思います。

手に取ってみると分かりますが「放浪記」は驚くほど薄い本です。
それで軽んじられる事もあったかなとも思うのですが、今にして思うと文体も今風で読みやすいのです。(だからこそ、小学生の時の私でも読むことが出来た)
文壇の筆致がやたらと堅苦しい事を思うと、口語的で擬音も多用している事が文壇からは非難され、一般人からは読みやすく支持されたのかなとも感じました。

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関連書籍

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今回の関連書籍を上げてみました。
指南役の柚木麻子さんは女性の暗部に関わる著作が多いなあと改めて思いました。

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