NHK公式HPより
【放送時間】2021年8月
【指南役】沼野恭子…ロシア文学者。東京外国語大学大学院教授。
【朗読】杏(俳優)
【語り】加藤有生子
戦争は女の顔をしていない
ロシア側の話なので今は懸念する人も多い事を承知の上で書いています。
本放送は2021年8月なので戦争が始まる前の放送です。
第二次世界大戦。
ロシアでは今の年代の高校生や大学生の女の子たちまでが戦争に駆り出されることになりました。
どうしてそんな事になったかと言えば、戦時中、ロシアは人的被害が大きく戦争に行った男性達が死に絶えてしまったからです。
この悲壮な事態は戦後、「女性しかいない村」がロシア国内に一つならずあったという結果にもなります。
「戦争は女の顔をしていない」の前提の話なのですが、こういった異常な人的被害の事はロシアでは公式発表もされず、また私自身もこの番組をみるまでは知らなかった事でした。
恐ろしい事にこれは「戦勝国」の話で、戦争をすれば勝っても負けても惨めな思いをするのは一般の市民であり、市井の人間であり、弱者である事は変わりません。
そもそも戦争はしてはいけないと言う事です。
アレクシェーヴィチの原作の中でもロシア側に不利益が生じる事は削除されたり規制されたりして完全な形ではなかなか発表できませんでした。
ですが、海外のロシア文学に通じたジャーナリストや学者によって補完されこうして私たちの元に届く事になりました。
2015年ノーベル文学賞受賞
私自身、この事態はこの作品が2015年のノーベル賞受賞まで知りませんでした。また当時は日本でも入手困難本で版元との契約で再販や重版が出来ない状態になっていました。
最初に契約していた冊数以外で販売出来なかったのです。
ですが、朗報もありました。
日本で新たな版権を取って発売出来る事になりました。
「戦争は女の顔をしていない」この表紙を書店で見つけた時は歓喜の声をあげそうになりました。
早速購入、読み始めましたが、あまりにも残酷で辛くて一気に読むことが出来ませんでした。
これを編纂するにあたり、いろんな人のインタビューを聞いて同時期に同じ思いをした人たちが国中から手紙が殺到しています。
死ぬ前に自分が体験した事を遺して後世に伝えたいという思いがあるのでしょう。
ロシア人もまた戦争で不幸になる事を望んでいません。
それを強く思った作品でもありました。
戦争は女の顔をしていない新聞広告より
「戦争は女の顔をしていない」のコミック版3巻が発売された時の新聞広告の内容を紹介しておきます。
ロシアとウクライナの戦争が始まった後に発売されました。
この時期の発売は出版社側も勇気が必要であったと思います。
(2022年3月刊行)
【広告内の引用】
戦争中、どんなことに憧れていたかわかるかい?
あたしたち夢見ていた
ねえ、戦争が終わるまで生き延びられたら戦争の後の人々はどんなに幸せな人達だろう!
【中略】
ところがどうよ…
え?
またまた殺し合っている
一番理解出来ないことよ……
いったいこれはどういうことなんだろう?
え?
私たちってのは……
最後に出版社からのメッセージで「今こそ、彼女たちの言葉に耳を傾けてほしい」と結ばれています。
書籍1冊・コミック版は第4巻まで刊行(2024年時点)
原作は岩波書店から
ノーベル賞を獲った当初、この作品の翻訳は群像社という出版社から発売されていました。
但し、契約上、重版を掛けられなかったために岩波書店が再契約し、発行されました。
今も重版され入手可能です。
コミック版は既刊4巻
コミック版はKADOKAWAからの刊行という一見華々しさでしたが、日本での知名度が高かったわけではありません。
実はこの帯にコメントを寄せたのがガンダムシリーズの富野 由悠季氏だったことがSNSでのトレンドワードに上りました。
実の所、私自身もこういうSNSでの評判がなければ、このコミック版の事は今も知らずにいたかもしれません。
皆さんも一度、読んでいただきたいです。